希望が途絶えた?
ダンジョンが現れたあの日、ネシリはゼストがダンジョンになったと目の前が真っ暗になった。
よろけるネシリを支え、テオ達が城へ報告に戻る。
悪魔族の長オザガラ、天使族の長フィリ、SSランクの冒険者十体はオザガラの執務室に集まった。
「どうしよう。
ゼストがダンジョンになってしまった。」
椅子にうなだれて座るネシリ。
「無いわ、人がダンジョンになるなんて。」
「そうよ。
ゼストは人よ。
ハイエルフと魔人族から産まれただけじゃない。
それが珍しかった以外は他の人と変わらないのよ。」
「稲妻と瘴気が身体から出るのは説明出来ないけどな。
でもあれは人だった。」
ネシリはふと顔を上げた。
「なぁ。
ご主人様が何かしたとかではないか?
ゼストがあんな風になった時、俺達はご主人様の元へ行ったのに会えなかった。
それはご主人様がゼストに何かしに行っていたのではないのか?」
みんな思い当たる。
「でもそれならゼストがあの様になる前にならない方法を俺らに伝えて下さらないか?」
それには誰も答えられなかった。
ラゴーラはラゴーラの考えを話す事は限りなくない。
話したとしても執事のハネスにぐらいだ。
そのハネスは口が硬く知っていても誰にも漏らさない。
「あの扉の文字。
あれは俺に会いに来いってゼストからのメッセージだ。」
ネシリは真剣だ。
「あれでか?
それはどうかと思うぞ。」
「ネシリ。
あなたはこの一年ゼストに心を奪われすぎで、弱っているんだわ。」
仲間はゼストがダンジョン説を否定する。
「ご主人様に聞いてくるわ。」
ネシリは埒があかない話し合いに苛立ってきた。
ラゴーラの城。
執事のハネスが出迎えてくれるのはいつもの事。
「ご主人様はいらっしゃる?」
「はい。
どうぞこちらへ。」
案内された応接室にラゴーラはいた。
ソファに座るよう促され挨拶の後ネシリは座る。
ネシリはほとんどの神の力を使えるラゴーラがゼストをダンジョンにしたのか、ダンジョンの果てにいる者はゼストなのか尋ねた。
そして扉の文字はネシリに宛てたものかとも。
ラゴーラは黙って聞いていた。
ネシリの話が終わってゆっくり紅茶を一口飲み、ゆっくりとカップを置く。
「それは何の為にだ?」
その一言でネシリはダンジョンの奥にゼストがいるという希望が音を立てて砕かれた気がした。
よろよろとネシリは立ち上がり、ラゴーラに挨拶をきちんとしたかも覚えていない状態で城へ転移した。
「勝手に考え勝手に答えをみつけ勝手に落ち込む。
ネシリもまだまだだな。」
ラゴーラは面白そうに笑う。
「ご主人様もネシリをからかうのはそれぐらいになさって下さい。
あの者は特別なのですから。」
執事のハネスに嗜められる。
「分かっておるわ。」
まだ笑っているラゴーラの少し冷めた紅茶を入れ直すハネス。
「さてネシリは答えを見つけられるかな。」
「いつになるかは分かりませんが、この試練をネシリは乗り越えられると思いますよ。」
執事のハネスは確信ありげに言った。
城のオザガラの執務室にはまだ全員残っていた。
ネシリを心配して元気を出せる方法を相談していたのだ。
戻ったネシリに駆け寄る。
「どうやらお前達の言うようにダンジョンはゼストではないようだ。」
当たり前でしょという言葉をネシリの落ち込み方を見てみんな飲み込む。
「なぁ、オザガラ。
俺をダンジョンに行かせてくれ。
自分の目で確かめたら、ゼストがダンジョンにいないと諦めるから。
頼む。」
普段ふざけている態度のネシリが深々と頭を下げている。
「俺達からも頼む。
ネシリのいない穴は俺達で埋めるから。」
仲間達もオザガラに頭を下げて願う。
「お前達の気持ちも理解している。
でもダメだ。
あれはゼストに関係ない物だ。
それにさく時間は今のお前達にも俺にもない。
まずは復興が先だろ。」
オザガラに続いてフィリも反対する。
「まだ住む所がない人が大勢いるわ。
食べ物もちゃんと行き渡っていない。
今生きている人を助けるのが先よ。
ダンジョンは逃げないわ。」
ネシリは頭を下げたまま、血が出るほど両手の拳を強く握ってダンジョンへ飛び出して行きたいのを我慢した。
そんなネシリの気持ちを何千年も側にいる仲間達は痛い程感じている。