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第8章 第18話 理解不能

「んー、左脚折れてるね」

「そうですよね……」



 トラリアルの一件に片をつけ病院に直行すると、わかっていたことだが現実を突きつけられてしまった。



「後遺症にはならないだろうけど、とりあえず1週間入院しようか」

「やった……! いや……そうですか……」



 来週にある全国模試を受けずに済んだ! 変わらず全国1位だ! と一瞬。いや今も思い続けているが、入院となると多くの人に心配をかけてしまうし、お金だってかかる。それに約1ヶ月努力し続けてきた体育祭への参加は断念ということになる。仕方ないことだが、受け入れるのには少し時間がかかりそうだ。



「それに元々身体がボロボロだったんだ。君の立場的にあの時は黙っていたが、これを機に身体をゆっくりと休ませてみたら?」

「そうですね……」



 ここは俺がナイフで刺された時と同じ病院で、同じ医師。今はその言葉に甘えた方がいいだろう。無理してがんばるところじゃない。



「そういうわけで、斬波。着替えとか持ってきてくれる?」

「かしこまりました」



 俺の付き添いで病院に来ていた斬波にそう頼み、一度ため息をつく。まず早苗に連絡して、義両親に謝って……団長にも謝っておかないとな。でも病院でスマートフォンって使ってよかったんだっけ……? あ、スマートフォン壊れてたんだった……。まぁ家族関係は斬波に頼めばいいし、体育祭はグレースさんに……。



「せんぱい、少しいいですか?」

「瑠奈さん、来てたんだ」



 診察室を車椅子で出ると、玲さんのメイド。瑠奈さんが珍しく神妙な面持ちで立っていた。



「まさか玲さんの怪我が思ったよりひどくて……!?」

「違いますよ。お見舞いとご報告です。お姉さん、トラリアルさん。とりあえずイフリートさんと同じ場所に送ることになりました」



 イフリート……あのクソ兄貴と同じ場所ってことは、園咲家本邸よりずっと田舎で、さらに過酷な場所での労働ってことか。



「クズみたいな台詞は吐きたくないけど、あの顔ならもっと稼げる場所あっただろ。クソ姉貴に気遣わなくていいのに」

「気を遣ったとすればせんぱいにですよ。せんぱいメンタルよわよわだから、ふとした時に辛くなっちゃうかもしれませんよね? そういう配慮です。感謝してくださいね」



 まぁそうかもしれないけど……気になるのはやはり瑠奈さんの表情だ。いつものあざとさはどこへやら。口調こそかわいらしいが、やはり顔は暗いまま。



「やっぱり玲さんの怪我が……」

「あんなのただの擦り傷ですよ。ルナは他のメイドたちとは違って放任主義なんで。あの程度の傷で一々心配したりしません。問題なのは、心の傷です」


「心の傷……? トラリアルに人質に取られた時に……!」

「あーもうめんどくさ……! 今は大丈夫なんです。傷を負うのはこれからで。しかもそれは避けられないって話です!」


「……? ごめん、全然わからないんだけど……」

「ですよねぇ……まったく。ルナ嫌いなんですよねー。ラブコメのヒロインが振られたけどこの恋で成長できたーとかそういうの。成長なんかしなくても、幸せになってくれればそれでいいのに」



 どうしよう。本当に言っていることがわからない。いや落ち着け。俺は全国1位を約束された男。ちゃんと考えればわからないことなんて……。



「だからちゃんと、考えてあげてくださいね」



 考えを巡らせる俺に投げかけられたのは、さらなる思考の強制。



「言われなくたって考え続けるよ。それしか俺にはできないんだから」

「……その言葉。絶対に覚えておいてくださいね。放任主義とは言いましたけど、他の何よりも大切なことに変わりはないんですから」



 結局俺は最後まで瑠奈さんの言葉の意味を理解することなく、話は終わった。

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