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第8章 第12話 しょうがない

「さてと……」



 玲さんを保健室に残し、俺は車椅子に乗りながらトラリアルの捜索を再開する。だが正直ここで俺が復帰したところで何か変わるかというと、たぶん何も変わらない。車椅子の機動力や目線の低さではどうしても限界がある。



 そこで俺は上を目指すことにした。馬鹿でかい校庭に面しているこの校舎。上の階から見下ろせば、不自然な動きをしている奴が見つかるかもしれない。



 ……いや、トラリアルの視点で考えろ。何人かもわからない無数の捜査員に追われているんだ。その状況を俯瞰的に見られる場所があったなら。そこを目指す可能性は高い。



 だからやはり向かう場所は上階。ただし最上階の一つ下。逃げる際に最上階だと下にしか逃げられないが、その一つ下なら上に行くという選択がとれる。というわけでエレベーターに乗り、4階へと向かった。



「いないな……」



 当然のことだが、廊下に人影はない。座っていてもわずかに見える窓の外を見てみると、俺が本来満喫するはずだった体育祭の様子が窺えた。



 走れもしないし、応援だって上手くできない。それでも俺はあそこにいるはずだった。家族のせいでずっと参加できなかった体育祭。それが今尚俺を蝕んでいる。



 これを怒りと言うべきだろうか。いや、そんな気持ちはとうに超えている。陰鬱とした感情その全てが今の俺の脳に渦巻いている。そしてその想いをぶつける相手が。



「……やば」



 目の前に現れた。



「虎ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「うっさいなー……」



 廊下の奥から現れたトラリアル。距離は十数メートルはあるだろう。俺の速度じゃ追いつけないし、階段は無理。なら取る手段は一つだ。斬波に連絡を……!



「ちょっと待った! 待ってよ話聞いてよ」



 スマートフォンを取り出そうとすると、トラリアルがへらへら笑いながら近づいてくる。



「……俺に迷惑かけるならまだわかる。でも関係ない人に迷惑かけるのはやめろよ」

「こっちだってやりたくてやってるわけじゃないんだって。しょうがないと思わない? 色々さ」


「何がしょうがないんだよっ!」

「だから静かにしようよ。ほら外見てみなって。あっちの声より塵芥の方がうるさいよ?」



 俺のすぐそばの窓を開け、何か意味のわからないことを口走るトラリアル。すぐに電話したいが、トラリアルに注意しながらスマートフォンを使えるほど慣れてはいない。



「いやー、やっぱ勝負はいいよね。体育祭さ、私負けたくなくてめっちゃ相手の靴ボロボロにさせてたんだよね。塵芥もそういうことした?」

「体育祭自体参加したことねぇよ。体操服買ってもらえなかったからな」


「へー。かわいそうに」

「っ!?」



 心底どうでもよさそうに相槌をうったトラリアルは突然俺の腕を引っ張り立ち上がらせる。



「まぁつまり私が言いたいことはさ、勝負するなら勝つまでやるのが大事ってことだよ。てなわけで」



 そして抵抗できない俺はそのままの勢いで。



「あんたが生きてると負けちゃうんだから、しょうがないよね」

「……は?」



 俺は窓の外へと投げ飛ばされた。

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