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第1章 第9話 年上

「先程はうちの者が失礼しました。よく言っておきます」



 地獄みたいな朝食が終わり部屋に戻ると、ついてきた早苗さんが斬波のベッドに腰をかけ頭を下げる。



「いやいいよ、事実だし。まぁでもお母さんにまで飛び火がいっちゃったのは悪かったな……」

「そうですね……母はお偉いさんからあまり好かれていないので。なれっこではあるのですが、それでは済まされない問題ですよね」

「家庭の事情ってやつだな。いや、どっちかっていうと名家のしがらみか。金持ちも金持ちで大変だな」



 心なしか早苗さんの表情が少し暗い。まぁ出来が悪いと言われればそうなるか。



「よかったら勉強を教えようか?」

「え? 勉強したくないですけど」

「そうですか……」



 お父さんが勉強できなくてもいいと言ったのはある意味真理だ。よほど深くもない限り、勉強というのはあくまで底辺が成り上がるためのもの。社長令嬢に必要不可欠かと問われれば全く必要のないものだ。



「うぁーマジあのクソジジイ最悪」



 2人で話していると、会議に行っていた斬波が部屋に入ってくるなりそう愚痴ってベッドに飛び込んできた。



「おかえりなさい。もうお仕事は終わりですか?」

「今日は夜が本番だからね。あと私会場設営やらされることになったから15時頃抜ける。イチャイチャするならその後でね」



 そういえば今夜パーティーなんだっけ……早苗さんの婚約者の紹介みたいな。これは……あの爺さんに嫌がらせされそうだな……。準備はしておくか。



「それとお客様だよ」

「やっほー、義弟くん」



 そんな軽い調子で入ってきたのは、長女のグレースさんと、そのメイド。



「先程は挨拶できずに申し訳ありません」

「いいっていいってそういう堅苦しいの。あたしはグレース。こっちはメイドの」

武藤侑(むとうゆう)で~す。よろしく~」



 チャラチャラしたグレースさんとは対照的な、のんびりとした口調のメイドさんが手を振る。だがそのウェーブがかかった髪は人工的にグレースさんと同様のブラウンに染まっており、仲の良さが伺える。



「それで、どう言ったご用件で」

「別に理由はないよ。強いて言うなら将来の義弟とお話したいってことくらいかな」


「ええそうです。お姉ちゃんは、やっぱりお姉ちゃんです。それを認めない寺門さんはやっぱり間違っています。抗議に行ってきますね!」

「はいストップ」



 むんっとした表情で立ち上がった早苗さんの袖を掴み、ベッドに座らせるグレースさん。



「あんなのあたし気にしてないから。ママもね。それに言って変わるならこんなことになってないでしょ」



 早苗さんとグレースさんの話は考えるまでもない。寺門さんの発言についてだ。



「ジンくん聞いてるかな? あたしのママね、再婚なんだよ。元々フランスの小さな玩具メーカーの出なんだけど父親が浮気しやがってね。女手一つであたしを育ててくれてた時、たまたま旅行に来たお父さんと出会ってひとめぼれされたんだって」

「はい。……だからその、立場があまり……」

「そ。ま、どうでもいいんだけどね。だってさ、」



 グレースさんがむすっとしている早苗さんを無理矢理抱きしめ、うりうりと頭を撫でる。



「こんなにかわいい妹が味方なんだもん。怖いもんなんてないよ」

「侑ちゃんもいるしね~」


「もちろん侑のことも忘れてないって! 斬波もね!」

「私なんも言ってないけど」

「ジンくんの前だから! 髪いじらないでくださいー!」



 4人ではしゃぎ合う光景は平和そのもの。とても後継者争いの当事者には見えない。やっぱり彼女たちを取り巻く人たちが悪いんだろうな。



「ですが納得いかないのは変わりありません! 大切な婚約者と両親。姉妹たちを愚弄されたのです。一言くらい言わないと……!」

「やめといた方がいいと思うけどな」



 依然興奮冷めやらぬ様子の早苗さんに、思わず声が出てしまう。すると早苗さんが初めて敵意のような視線を向けてきた。それだけ家族が大事なのだろう。でも、だ。



「言っても変わらない相手に言葉を尽くすのは意味のないことだ。自分が満足してそれで終わり。その実問題を掘り起こしてるのに。自己満足をするのは勝手だけど、それで他人を巻き込むならそれは良くないことだ。絶対にな」



 思わず語気が強くなってしまったのには理由がある。俺の家族のせいだ。



「俺は母親の浮気相手との間にできた子ども。一緒にしてほしくないだろうけど、立場的にはよく似てる。俺が子どもの頃の話だ。父親に殴られてた時、妹が庇ってくれた。でも次の日には暴力はエスカレートしていた。何でかわかるか? 非を認めたら自分が悪くなるからだ。誰だって自分が間違えてるだなんて思いたくない。しかも格下相手にそんなことを言われたら。当然自分が正しいのだと証明するかのようにエスカレートする」



 あー……駄目だ。雰囲気がまた地獄みたいになってる。不幸自慢なんて無意味なこと言わないようにしてたんだけどな。



「ようするにだ。何を言っても無駄な奴は排除するしかないんだよ」

「それは……寺門さんを追い出すということですか?」

「俺は。そうしようと思ってる」



 ただ俺の話を聞いていただけの4人の顔が険しくなる。そこまでしようとは思っていないからだろう。それにこんなこと言ったら、園咲家を乗っ取ろうとしてるんじゃないかと。少なくともメイドの2人は思われてしまうだろう。悪手でしかないが、それでもだ。



「俺も。大切な人を傷つけられて黙っていられるほど優しくない」

「あははははっ」



 俺の決意は。グレースさんの笑い声によってかき消された。



「少年、もしかしてお姉さんのこと口説いてるのかな?」

「は? ジンくん、そうなのですか?」

「ちがうちがうちがう!」



 グレースさんがにやーっと笑い、早苗さんが暗い瞳で俺の顔を覗き込んでくる。なんか小っ恥ずかしいんだけど……!



「まぁそう熱くなりなさんな若人たちよ。こっちはこっちで色々考えてるから」



 そしてグレースさんは悪戯な笑みを崩さないままてくてくと歩き。部屋の扉に手をかけながら言う。



「でもうれしかったよ。君がもう少し年上だったら、付き合ってあげてもよかったかな」



 やはり年上。無駄な争いを避け、見事に場を収めてみせた。終わってから考えてみると、俺も少し熱くなっていたのかもしれない。でも。



「やっぱりジンくんお姉ちゃんのことを……!」

「だから違うって!」



 できればこっちの争いも収めてから行ってほしかったな……!

依然ジャンル別日間ランキング1位です! 本当にありがとうございます!!!


そしてなんとか2日で6話書けました! 明日からはさすがに毎日更新になりますが、引き続きおもしろかったらぜひ応援してください。特にまだ評価してないよという方は! ぜひぜひ下の☆☆☆☆☆を押していっていただけるとうれしいです! もちろんブクマもよろしくお願いします!!!

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[気になる点] やめといた方がいい、と言っただけで敵意向けてくるの…? 自分の意見に少しでも否定的な意見をしただけで、好きな人にすら敵意を向けるとか、やっぱ一目惚れする人間は惚れっぽい反面、人を嫌うの…
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