第8章 第4話 できることへの一歩
「案外少ないな」
応援団の集まりが行われるという会議室に入った時に出た感想はそれだった。1クラス2人。それが小中高大となれば相当な数だと思っていたが、50人は超えているが100人には到底満たないほどの数しかいない。時間的にもそう増えないと思うのだが……
「誰も応援団なんてやりたがらないから高校生だけ強制的に集めている。だから毎年この程度」
「なるほどな」
俺が元いた学校は目立ちたがり屋や真面目な奴が入っていたような気がするが、ここは金持ち学校。それも当然か。
「ジンさんっ! お待ちしていましたぁっ!」
どこに座ろうかと思っていると、前の方から大声が。
「熱海さんも応援団入ったんだ」
「私は毎年応援団ですっ! わからないことがあったらなんなりとぉっ!」
四女愛菜さんのメイド、熱海さんが手を勢いよくブンブンしてきた。確かにこの熱血さんは応援団に向いているだろう。俺たちがその横にいこうとすると、
「女性の方! 申し訳ありませんっ! そこは予約済ですっ!」
「……そう」
熱海さんにそう言われ、江草さんはさらにその横の椅子を後ろにどけて車椅子を入れる。そしてそれを待っていたかのように、俺の横に1人の女子が座った。
「お義兄さん……こんにちは……」
「玲さん」
そこに現れたのは、応援団のイメージとは正反対にいる人見知りの玲さん。
「応援団やりたかったの?」
「う、ううん……。その……アクアさんが……怖くて……」
「あいつとっちめてくるっ!」
「ちっ、違うのっ。アクアさんは何もしてないけど……ああいう人と関わったことなかったから……緊張しちゃって……。アクアさんは悪くない……」
玲さんがそう言うということは、本当にそうなのだろう。確かに温室育ちの玲さんがアクアみたいなドヤンキーと関わる機会は少ないか。まぁ斬波とか根はアクアと似てる気がしないでもないが。
「ごめんな、アクアがなんかしたらすぐに教えてくれ」
「う、うん……。それに……お義兄さんと……一緒にいたかったから……」
「おい邪魔なんだよ椅子よぉ!」
玲さんと話していると、江草さんが後ろにどかした椅子が邪魔になっていて大学生らしき2人の男が怒りの声を上げていた。
「すいません……」
「いいよ、俺がやる」
江草さんが無理をしようとしたので、俺が立ち上がって椅子をどかす。怒る前に自分で動かせばいいのにと思ったが、悪いのはこちらなので何も言い返さないでおく。
「なに? 君もこの子と同じで脚が悪いの?」
「まぁはい……車椅子使うほどじゃないんですけど……」
椅子を整えながら答えると、男2人がため息をついて笑った。
「あのさ、俺ら真剣に応援団やってんのね。それをさ、君たちみたいな他の競技出られないから嫌々入ったような人がいると迷惑なんだわ」
「……つまり脚が悪いと応援団に入れないと?」
「そういうわけじゃないけどさぁ……応援団ってチームで揃った一体感のあるパフォーマンスをするからいいのよ。それをさ、立てない奴とかがいるとさぁ……見栄え悪いじゃん?」
「はぁそうですか……」
とりあえず椅子をどけ終わったので、俺は座り直すとスマートフォンを取り出し録画を開始する。
「……え? なに? 動画撮ってんの?」
「少なくとも俺はあんたらの言う通り嫌々入ってるんで。辞めるにしても理由が必要でしょ? 誰がどういった理由で応援団への参加を拒否したかを証明しないと。先生に納得してもらえないじゃないですか」
俺がそう言うと、男たちは明らかにばつが悪そうな顔をして焦りを見せた。
「いや別に辞めろとは言ってないし……」
「あぁそうですか。じゃあ言い直してください」
「……つーかさ、だせぇんだよ先生にチクろうとするとか」
「いいからちゃんと言えよ。脚が悪い奴がいたら迷惑だから辞めろ。あるいは、ごめんなさいか」
俺の言葉に男たちは顔を見合わせ、軽い怒りは感じるが謝る予兆が見える。さすが金持ち学校。東山高校の奴らよりは賢そうだ。
「……須藤くん、いい。迷惑をかけてるなら辞める」
そしてこれもさすがと言うべきか。自分がトラブルの元凶になったからか、江草さんが引こうとしている。だがこれは受け入れられない。
「追い出される理由が個人の問題なら知ったこっちゃない。でもこいつらの言い分は脚が悪いから、だ。当然脚が悪ければできることは制限される。でも脚が悪くてもできることはあるはずだ。それを考えないで邪魔者扱い? ふざけるな。江草さん、君はいいのかもしれないけど俺は納得できない。こんな環境に大事な玲さんや熱海さんを置いておけないんだよ」
正直トラリアル対策のために応援団は適当に流すつもりだったが、やめだ。俺の役目はこっち。結局忙しくて部活も決められなかったからな。まずはここから、整えてやる。
「感謝しろよ。暫定全国1位の俺が全力で頭を使ってこの応援団を変えてやるよ」