第1章 第8話 怒り
怒りは人の判断を狂わせる。よく見るのはクソ両親が呆れた理論で相手を怒らせ、失言を引き出したり、相手にもういいよと言わせているところ。その度に俺が後から土下座して回っていたが、いざ自分がやるとなると。こんなに楽しいものなのか。やはり俺の血にはあのゴミと同じものが流れている。最悪だ。
「旦那様……。悪いことは言いません。あのような人間、すぐにでも追い出すべきです」
そう憎々しく言っているのが、先代社長の秘書も務めていたという武藤家のトップ、武藤寺門さん。斬波の話では、最も厳格で、最も老害。どうにも昔の栄光を引きずっているらしい。
「挨拶もできず、虫を食べ、一度落ちたものを拾い、食事の場で騒ぎ、給食費も払えないほどの貧乏育ち。育ちが悪いだけなら教育すれば何とかなりますが、まともに歩くこともできない欠陥品。そのような人間を天下の園咲家に入れるなど言語道断! 早苗様を助けてもらった恩なら金を支払い済んだことでしょう。このような男にこだわる必要はございません!」
ずいぶんな言いようだな……まぁ事実だけど。だがやり方が稚拙。事実を言うだけで俺を追い出せるなら、今この場に俺はいない。本当に性格の悪い奴だったら、こうする。
「不快な思いをさせてしまったようでしたら謝罪します。ですが場を改めさせてください。……来海ちゃん、おいで。お兄さんが守ってあげるから」
「うぇぇぇぇぇんっ」
寺門さんが突然怒鳴ったことで。小学3年生の来海さんが泣きそうになっていたのは見えていた。優しく声をかけると、大きな声を上げながら俺に飛びついてきた。母親のところに行く可能性もあったので賭けだったが、すぐに泣きださなかったことから。
「泣いたらじもじぃが怒るから! うぇぇぁぁぁぁっ」
まぁこんなとこだろうと思っていた。じもじぃとはおそらく寺門さんのことだろう。泣きたい時に優しく慰められたら、その人のこと信用しちゃうよなぁ。
「泣きたい時は泣いてもいいんだよ。それで怒られたら僕のところにおいで。必ず僕が守ってあげるから」
「……うん。おにいちゃん、すき」
「は?」
来海さんを膝の上に乗せ頭を撫でてあげると、隣の早苗さんが怖い目で来海さんの顔を覗き見る。こんな子どもに嫉妬するなよ……。
「寺門さん、ご自身の言っていたことを思い出してください。ここは食事の場。声を荒げるなど言語道断。だと思うのですが、それは育ちが悪いからでしょうか?」
「ぐぅ……!」
馬鹿だなぁ。怒鳴っている人間と冷静な人間。どちらが印象いいかなんて明らかだろうに。加えて子どもに優しくすることで好感度アップ。うちのクソ親がよくやっていたことだ。兄貴に万引きさせて、バレたら子どものやっていたことだからとか何とか言って有耶無耶に。クソみたいな戦法だが、子どもというのは存在自体が大きな武器。使わない手はない。
「寺門さん、ジンくんの言う通りだ。言いたいことがあるなら食事の後にゆっくりとしよう」
そしてここでお父さんが味方についてくれた。これで俺の完勝……だと思ったのだが。
「旦那様は甘すぎる! だから娘が五女以外出来損ないになったのだ!」
寺門さんの暴走は止まらない。まぁ偉いってことは、ある程度の暴言は許されるってことだからな。加えてこれは事実。小6の杏子さん以外は勉強の出来があまりよろしくないらしい。まぁこれも俺の利に繋がるわけだが。
「ならちょうどいい。自慢ではないですが、私は先日の全国模試で全国1位の成績を収めました。1位はできすぎでしたが、常に100位程度には入っています。時間がある時に勉強のお手伝いをしましょう。きっとお力になれるはずです」
今度こそこれで……。
「……旦那様、お忘れですか。ミューレンスを買収した時のことを」
「それは18年前に終わった話だ」
どうやら寺門さんの中で限界を超えたようだ。腹にたまっていた鬱憤が溢れ出し、お父さんの地雷を踏んだ。
「終わってなどおりません! 園咲家は本来数々の資産を持つ名家! それがひとめぼれだかなんだか知らないが、玩具メーカーなんかの。しかもこぶつきのハーフなどと結婚して! おかげでどれだけ園咲家の名誉が傷ついたか……! お父上に申し訳が立たんっ!」
「父さんには納得してもらっているし、資産もむしろ増えている。この話は終わりだ」
「園咲家の名前を穢すなと言っているんだ!」
「この話は終わりだと言ったはずだ!」
お父さんがテーブルを殴り、部屋に重い空気が充満する。
かつて園咲家は玩具メーカーの社長ではなく、大量の不動産や株などを保有する名家だったそうだ。だが旅行先で知り合ったシューラさんと出会い、ひとめぼれ。海外の企業を日本にも誘致し、園咲家の力で大きくすることに成功したらしい。
俺の目から見れば。かなりの大成功で尊敬以外の念は抱かないが、名誉を重んじる旧い人は納得できないのだろう。その怒りが俺によって増幅され、爆発した。この空気は最悪だが、これで俺は。
「大切なのは家の名前なんかじゃない。一人一人の幸せだ。勉強できなくてもいい。どんな人と結婚してもいい。幸せになってくれればそれでいんだ。だから早苗を頼むよ、ジンくん。君になら安心して早苗を預けられる」
「はい。必ず私が娘さんを幸せにしてみせます」
寺門さんを踏み台にし、園咲家からの信頼を勝ち得た。
ジャンル別日間1位になれました! やったぁぁぁぁぁぁぁぁ! ありがとうございます!!!!!!!!!!
そんな中、とても暗い回でした。あんまりおもしろくなかったかもしれません。ごめんなさい。ですが本日夜にもう一度更新しますのでお待ちください!
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