第7章 第6話 弱者
「早苗……早苗ぇ……! 起きたらいないから……捨てられたのかと思って……!」
部屋に戻ると、既に起きていたジン様が狂ったように早苗様に抱きつきました。ですがすぐに後ろの私の存在に気づくと硬直。次にさらに後ろの悪亜様を視界に入れると、激しく動揺して距離を取ろうとし、脚が追いつかなくなって転んでしまいました。
「ジンくん、大丈夫ですか?」
「う……うん……大丈夫……」
駆け寄ろうとした早苗様を手で制すと、ベッドに手をついて、その勢いで腰かけました。私たちの手前強がったのでしょうが、2人きりだと甘えっぱなしだということが見て取れます。破廉恥です。
「と……とりあえず……アクアは何の用……?」
「……今までごめん。これでいいでしょ?」
「兄妹そっくり! どうして無駄に強がるんですか!?」
初めは状況に混乱していたジン様。しかし早苗様が悪亜様を連れてきたとわかると、一度ため息をつき、髪をかき上げました。
「……あんまり早苗に強い言葉使いたくないんだけどさ。余計なことすんなよ」
早苗様を気遣われたように言われたその台詞ですが、語気は強く、私が見たことがないくらい。その表情は、怒りに満ちていました。最愛の人に怒りを隠せないほど、ジン様にとって家族の話はセンシティブなのでしょう。それでも早苗様は怯みません。
「私も関わりたくない人とわざわざ関わる必要はないと思います。でもジンくんはアクアさんともう一度家族に戻りたいのでしょう? それがあなたの思う幸せなら、私はジンくんが嫌がろうとその幸せを追い求めます。私はジンくんを幸せにすると約束したのですから」
強い瞳で見つめ合う御二人でしたが、先に目を逸らしたのはジン様でした。
「……さっきも言っただろ。まだ早すぎるって。もし本当にアクアが反省していたとしても……1ヶ月かそこらじゃまだ、許せない」
「それでも構いません。ですがその前にアクアさんの言葉を聞いてみてはどうですか? ジンくんはまだ一度もアクアさんの素直な想いを聞いていないでしょう? それを聞いてから許せないと判断すればいいんだと思います。そっちの方がジンくんもすっきりするでしょう」
「……わかった。でもその前に、早苗と2人きりにさせてくれ。覚悟を決めないと……受け止めきれない」
ジン様の言葉に従い、私と悪亜様が部屋から出ていきます。そして扉を閉めようとして振り返った時、見えてしまいました。ジン様が早苗様に抱きつき、キスをしているのを。ですがその姿は扉に阻まれ、すぐに私の視界から消えました。