第7章 第2話 超絶最強虎
「会いたかったかわいい弟よ! さぁ金貸して! 倍にして返すからっ!」
実の姉。トラリアルが俺に抱きついてくる。乱れに乱れた金髪が顔をくすぐり、煙草と酒が混ざった不快な臭いが吐き気を誘発してくる。
「ジンくんのお姉様でしたか。はじめまして。ジンくんの婚約者の園咲早苗です。今後ともよろしくお願いいたします」
「あーはいよろしく。君でもいいよ? 金くれるの」
「いい加減にしろっ!」
姉貴を引き剥がそうとするが、体重をかけてきているので杖をついて倒れないようにするので精一杯だ。
「ジンくん、よかったですね。アクアさんやイフリートさんと違ってずいぶんと仲が良さそうです」
「……早苗。いい加減俺の家族をわかった方がいいぞ。全員もれなくクズ。俺も含めてな」
俺は杖を持っていない右手を伸ばし、姉貴の腕を掴む。ケツポケットをまさぐる姉貴の腕を。
「相変わらず手癖が悪いな。生憎俺は金なんて持ってねぇよ」
「なんだ、ヒモか。じゃあいいや」
俺に金がないことがわかると、姉貴は俺を突き飛ばして離れる。これが俺の姉貴。超絶最強虎の本性だ。
24歳。定職には就いておらず、フリーターですらない。物を盗み、それを金にして、ギャンブルをする。それで金が減ればまた繰り返し。運任せのような人生を送っている、文字通りギャンブル女だ。ある意味、兄妹の中で一番気に食わない。
「あーでも仲良くしようね。せっかく会えたんだし」
「ふざけんな! 悪いこと企んでいようと無駄だぞ! アクアとイフリートは追い込んだ! クソ両親は海の上だ! お前もそうなりたくなかったらもう二度と俺に近づくんじゃねぇよっ!」
「やだなー、そんなんじゃないって。家族なんだから仲良くしようよ、ってだけじゃん」
「どの口が……!」
本当にこいつはタチが悪い。家族の中で唯一俺に友好的なフリをして、その実何か金になるものがないかと探っている。こいつにとっては犯罪も、捕まるか捕まらないかのギャンブルでしかない。保身を一切気にも留めない、要注意人物だ。
「早苗、行くぞ」
「は、はい……」
早苗の手を取り、なるべく速く立ち去ろうと脚を動かす。
「ほんとひどいなー」
姉貴が口走るその言葉はどんどん遠くなっていく。
「そんなに必死に逃げられると、追い詰めたくなっちゃう」
そのはずなのに。捕食者のようなその舌舐めずりは、耳元にべっとりと張り付いて消えてくれなかった。