制裁 2
第2章と第3章の間のお話になります!
〇斬波
「お父さん、ちょっと遊んでかない?」
私がそう声をかけると、男は一も二もなく飛びついてきた。本当に男という生き物は馬鹿ばかりだ。
「クソっ! ふざけやがってあのクソガキがぁっ! あいつのせいで! あいつのせいで俺の人生はおしまいだ~~~~!」
武藤家の息がかかったバーへと連れ込み数時間。その男は涙をボロボロと流し、失った水分を取り戻そうとするように酒を喉に流していく。他に客もいないので暴れっぱなしだ。この男の素性は完全に調査し終わっている。
加賀晋三54歳。大学卒業後数学教師として様々な高校に赴任し、現在は東山高校でジンのクラス、2年B組の担任も勤めていた。が、先の虐めの摘発により、あえなく解雇。26年間連れ添った妻や高校3年生、中学2年生の娘2人からも逃げられる。その際須藤家や奥さんに多額の慰謝料を払い、現在は残ったわずかな金で酒を飲みパチンコや競馬をする日々を送っている。そこに若くて綺麗な女の子から声をかけられたんだ。脳死でついてくるに決まっている。
「大変だったんだねー、お父さん。ほら、もっと飲んで飲んで」
適当に煽ると、加賀は嬉しそうに酒を一気に飲み干し、おかわりを注文する。本当に惨めだ。自分を嵌めた人間が、今も嵌めているというのに。まぁいかにも遊んでる服を着てるし、髪も金髪のウィッグ着けてるから気づかないのも当然か。
「ねぇアクアちゃん。この後どうするよ。当然もっと遊びたいよなぁ?」
「……あぁそうだね」
ウーロンハイに見せかけたウーロン茶を飲んでいると名前を呼ばれたが、一瞬出遅れてしまった。こんな男に自分の名前を呼ばれるなんて不愉快極まりない。だから私が一番嫌いな人間の妹の名前を使わせてもらった。
「もちろん遊ぼうよ。もっとね」
「それでなんだけどさ……今俺金がなくて……」
「あぁいいよ全然お金なんて。ないのはわかってるし」
「そう……え? なんで俺が金ないこと知って……」
「ない分は稼いでもらうだけだって話だよ!」
「ごぼぉっ!?」
いい加減付き合っていられなくなったので加賀の腹に裏拳をかますと、椅子を転げ落ち吹き飛んでいく。
「な……なぁ……!?」
「おかしいと思わなかった? なんでバーに私たち以外客がいないのか。代わりにこわーいお兄さんたちはいっぱいいるけどね」
私が指を弾くと、カウンターの奥からスーツを着た男たちが何人も出てくる。全員武藤家の人間だ。次期当主である私の、実質的な部下。寺門が使える程度の男たちよりよっぽど使える。失敗などありえない。
「な……なんなんだよお前ら……! 俺がお前に何かしたかぁ!?」
「あー私にしてきたこととかどうでもいいんだよね正直。問題は私のご主人様にしたことでさ。あんたみたいな奴を野放しにしてたら園咲家に迷惑かかるでしょ? まったく。早苗も自分がどれだけの影響力があるかいい加減わかってほしいよ、ね!」
「ぼごぉっ!?」
武藤家の人たちに両腕を掴まれ膝立ちにされる加賀。その腹にブーツのつま先をめり込ませる。そして沈んだ加賀の頭に辛うじて生えた髪を掴み、しゃがんで顔を近づける。
「選べよ。あんたが死ぬ気で金稼ぐか、奥さんや娘さんたちに堕ちるところに堕ちてもらうか」
「ひっ……ひぃぃぃぃ……! あ、あいつらが稼ぐ! 俺の代わりにあいつらが何とかするからぁっ!」
「へー。家族売るんだ」
「俺を捨てたあいつらなんて家族じゃねぇよぉっ!」
聞くに堪えない。自業自得の上、長年連れ添ってくれた大事な家族をこんな簡単に売るなんて。まぁもっとひどい親なんていくらでもいるけどね。
「まぁいいや、これ意味ない質問だし。はい立って」
「まっ、待って! 金ならほんとにないんだってぇっ!」
「金? あーいいよそういうの。これは面子の問題なの。関係ない奥さんやあんたのなけなしの金なんていらないよ。私がほしいのは、あんたの不自由。さ、逃げられない船の上行こっか」
「そんな……待って! やだっ! やだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
年甲斐もなく子どもみたいに喚く加賀を連れ、男たちが裏口の車のところまで引っ張っていく。
「クソっ! クソぉぉぉぉっ! これも全部須藤のせいだっ! あいつさえいなければ! あいつさえ黙って死んでればみんな幸せだったのによぉぉぉぉっ!」
「……それについては、同意見」
惨めな断末魔に同意し、私は残ったお茶を一気に喉に流し込んだ。
ようやく戸川くんと担任の末路を書けました。もしかしたら続くかもしれませんが。そして第2章と第3章の間のお話はこれで終わりでしょうか。次回は3章の間に起こったことを書くと思います。
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