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近くて遠い

第2章と第3章の間の話です!

〇ジン




 俺が通っていた高校が事実上の終焉になってから1週間と少しが経った。その間行っていたのは、殴られた怪我の療養。そして早苗たちが通っている風鈴学園の編入試験。前者は経験上痛みに強いから問題なし。後者も全国1位の学力を持つ俺からすれば、どんな学校でも楽勝すぎる。普通に入学してたら特待生で学費免除だったろうが、それは致し方なし。将来全額返せばいいだけだ。



 なので特に問題なく時間が過ぎている。と周りには思わせている。だが実態は、違った。



「しんど……」



 早苗たちが学校にいる間と、深夜。俺は脚のリハビリに励んでいた。俺の脚の怪我はたいしたことはない。リハビリを続けていれば、杖をついて普通に歩くことができるようになるそうだ。先生には数ヶ月と言われたが、そんな悠長に待つつもりはない。だからこうして同室に住む斬波が寝ている間にも必死に脚を動かしている。だがこれが、意外ときつい。



 痛みはあるが、それは刺された傷が完治していないからでずっと感じているもの。これについては問題ない。だが問題なのは、自分の脚が思う通りに動かないという事実。今まで何も考えずに行えたことが、どれだけがんばっても動かない。神経が傷ついているから仕方ないとはいえ、そのイメージのギャップを埋めるのが難儀だ。何度も倒れ、その度に立ち上がってまた倒れる。一人で黙々とやっていると、どうしても鬱々とした気持ちになってくる。どう足掻いても見えてこない成功が遠すぎて諦めたくなってくる。



 でも諦めるわけにはいかない。こんな程度で諦められるなら、俺は全国1位なんて取れていない。努力し続けること。それが俺の唯一の特技だ。



「……辛そうだね」

「斬波……」



 俺が何度も倒れてたからだろうか。寝ていたはずの斬波がベッドから起き上がりこっちを見ていた。



「いや別に……たいして辛くないよ。起こして悪かった」



 汗を拭い、そう返す。斬波に心配をかけるわけにはいかない。俺が弱みを見せるのは、早苗だけでいい。



「なんでそんなにがんばるの? 別に車椅子でも誰も文句言わないよ。学校もバリアフリー整ってるし」

「恥ずかしいから言わないでほしいんだけどさ……早苗と隣で歩きたいんだよ。押してもらったら顔が見えないだろ?」


「ふーん。そんなに早苗のこと好きなんだ」

「そうだな……。それに努力を止めたら、早苗と一緒にいられなくなる。俺は死ぬほどがんばって、ようやく早苗と一緒にいられるんだ。ちゃんと恩義は返さないとな」



 ようやく手に入れた幸せだ。努力を怠って手放すなんてありえない。早苗と一緒にいるためなら何だってやる。それが俺にできる唯一のことだ。



「それと今のジンに伝えるかどうか迷ったけど……妹さん、アクアちゃん。行方不明なんだよね」

「……あっそ」



 早苗について考えていた時に水を差され、思わずそっけない返事になってしまった。



「あいつのことだ。どこでもやってけるよ。まぁあんなことになった以上堂々とは歩けないだろうが……生きることに意地汚い奴だからな」

「辛くないの? 実の妹を地獄に叩き落として」


「……辛くないな。あんな奴、妹とは思ってない。恨みの対象でしかないし……むしろいなくなってくれた方がうれしい」

「あぁそう……よくわかった」


「ていうかなんでアクアが行方不明だって知ってるんだよ……調べたのか?」

「そりゃ調べるでしょ。ジン甘いんだもん。あの程度で地獄に叩き落としたなんて思ってるんだから。……本当の悪人は周りからの見え方なんて、気にしない。SNSで晒された程度で辛いと思ってるのは小物だけだよ」


「それについてはお前より俺の方がよく知ってると思うけどな。なんせ悪人が家族全員だったわけだし」

「……どうだろうね。悪人本人には、敵わないと思うけど?」



 斬波が何か言おうとしている。でもそれ以上話すつもりはないようだ。なら何も聞くつもりはない。



「さてと。リハビリ手伝ってあげるよ」

「いやいいよ……俺1人で何とでもできる」


「いいって。早苗のためなんでしょ? なら私が……手伝わないと」

「……ありがとう」



 俺は斬波と仲がいいつもりだ。趣味や話が合う。でも……なんとなく、支えてもらっている今。すごく遠いような気がしてならなかった。

現在進行している続編の補完的なお話でした! そろそろ明るい話を挟みたいところ! 次回はジンと早苗のイチャイチャかな? と思っています。期待していただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価をよろしくお願いいたします!

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