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制裁

第2章と第3章の間のお話です!

〇斬波




 その日私は駅前にあるシンボルの前のベンチに腰かけていた。髪を下ろし、フリルのついた白いブラウスと黒いミニスカートを履いて。男から見たら清楚系。女から見たら地雷系ファッション。でもかわいさは折り紙付きだ。なんせ早苗の私服がこんな感じだから。趣味ではないけど、男ウケは間違いないだろう。



 なぜ私が休日に駅前で1人そんな格好をしているのかというと、仕事だからだ。とは言っても誰かに命じられたわけではない。私は既に誰かに指示を受け業務を行うという立場にはいない。一般企業からいえば部長くらいの立場にはいるだろう。ということで、自己判断。私の会社、園咲家のために必要だからこうしている。



「君、今1人?」



 退屈ですよとアピールするようにスマホを弄っていると、1人の男が声をかけてきた。見上げてみると、ビンゴ。



「はい。友人にドタキャンされてしまって1人です」



 そして私は早苗のようなあざとかわいい表情と声を作り、その人に。今回の標的である戸川旭に笑ってみせた。



「よかったらちょっと遊びにいかない?」

「私でいいんですか?」


「もちろんだよ! だって君すごくかわいいし……」

「……え、そういう目的ですか……?」


「違う違う! 絶対変なことしないから!」

「そういう……ことなら……」



 私は警戒心を持っているが、どこか抜けた子の演技をすると、彼の一歩後ろをついていく。



 戸川旭。ジンと同じ小学校出身で、虐めの主犯格。数日前に虐め動画が流出し、学校を退学寸前になっているのにナンパなんていい御身分だ。ま、それくらい馬鹿じゃないとあんなことできないか。私にも会ってるはずなのに服と髪型とメイクを変えただけで気づかないみたいだし。



「どこ行きたい? なんでも奢っちゃうよ?」

「うーん……ちょっと歌いたい気分かなぁ……」

「おっけカラオケね!」



 戸川の口角が気持ち悪く上がったのを私は見逃さなかった。密室に2人きりなんて男に都合のいい場所を自分から提案したんだ。どうせよからぬことでも考えているのだろう。提案したってことは、こっちにとっても都合がいいということにも気づかないで。



「なに歌う? 俺結構歌上手いんだ!」

「わぁ楽しみ! その前に飲み物持ってきますね。何がいいですか?」


「コーラ!」

「わかりました。ちょっと待っててくださいね」



 女1人に取りに行かすなゴミがという言葉を呑み込み、私はドリンクを取りに行く。そして戸川の聞くに堪えない歌を笑顔で盛り上げ、全く趣味ではない流行りの曲を歌う。ストレスの溜まる仕事が始まってから30分ほどが経っただろうか。なんとなく休憩という空気が漂い出した。



「ねぇ、今付き合ってる男とかいんの?」

「えぇー……そんな人がいたら誘いなんて受けてませんよぉ。私なんでかわからないけど全然モテないんですよねぇ。だから今まで彼氏いたことありません」



 当たり前だ。なんで汚らしい男となんか付き合わなくちゃいけないんだ。付き合うならそう、かわいくて胸の大きい笑顔が素敵な女の子がいい。



「じゃあ俺と付き合ってみる?」

「会っていきなり付き合うのは難しいですよぉ。まだ全然旭さんのこと知りませんしぃ」



 さっそく食いついてきやがったな性欲お化け。だから男は嫌なんだ。ジンだって同じだ。人畜無害みたいな顔……はしてないな。普通に女食いまくってそうな顔してるんだ。どうせ頭の中では早苗とどうやってそういうことをするかしか考えていないはずだ。本当に気持ち悪い。



「じゃあもっと仲良くなろうぜ! 俺さ、実は今停学中なんだよね」

「え? もしかしてチョイ悪なんですか?」


「チョイ悪ってか極悪よ。ちょっとむかつく陰キャ殴ってたらさ、なんか大事になっちゃて(笑)。ほんとむかつくわー、あの陰キャ。今度見かけたらぶん殴ってやろ。君も陰キャとか気持ち悪いとか思うっしょ?」

「うん……そうだね。私の学校にもいるよ。むかつく陰キャが。私の大事なもの全部取ろうとする……むかつく奴が」



 いけないいけない。今はこいつのクソださい武勇伝を聞かなきゃいけないんだった。



「しかもさ、そいつめっちゃかわいい子と付き合ってんだよ殺したくなんない?」

「へー、それってどんな?」


「ミューレンスってあんじゃん。そこの社長の娘なんだってさ。そいつが学校に乗り込んできてさ、何言ってんのか全然わかんなかったけどほざいてたんだよ殺したくなったわ」

「そうなんだ。そんなことが知られたら、ミューレンスの価値まで下がっちゃうのにね」


「それそれ! つーかそればらしちゃおっかな。俺もやられたんだしそれくらい……」

「だから私がこんな悪事を働かなきゃいけないんだよ、まったく。早苗ももう少し自分の立場をわかってほしいよね」


「は? お前何言って……?」

「あ、薬効いてきた?」



 私がドリンクに入れていた睡眠剤が効いてきたのか、戸川の身体がふらつき出す。



「お前……何者だよ……!?」

「これ見てもわからない?」



 いつものように髪を結ぶと、戸川の目が大きく見開かれた。ようやく気づいたのだろう。私の正体に。だとしたら何をされるかわかってるはず。



「そういえば私、お前に胸触られたっけ……ねぇっ!?」

「ごぼぉっ!?」



 戸川の腹を全体重を乗せ殴ると、唾液と吐瀉物と血を吐き散らしながらうずくまった。



「まったく。ジンは甘すぎるんだよ。なに虐めの動画をネットにアップするって。そんなんが復讐になると思ってるとか性格良すぎ。常識ないくせにね。おい、私が喋ってるんだから返事しろよ!」

「ぐ、あぁっ!?」



 うずくまる戸川の後頭部を踏みつけ、吐瀉物に顔を押し付ける。汚いなぁほんと。まぁ私にお似合いの仕事か。



「結局さ! 人間も動物だから!? 生命の危機が一番効くんだよね! こんな風にさぁっ!」

「あがっ! ぐぎゃっ!? うごぉっ! ぎゃぁぁぁぁっ!」



 私の靴に汚いものがつかないよう慎重に。それでいて的確にダメージを与えられるように調整して蹴りを入れる。



「ご……ごべんなざい……! ゆるじでぐだざいぃ……!」



 気がつけば歯が抜け、鼻が折れ、ぐちゃぐちゃになった顔を晒して戸川が謝っていた。何が極悪だ。こんなこともできないくせに。



「じ……塵芥にも……謝る! だから命だけはぁ……!」

「塵芥? あぁそれね」

「ぎょぼぉっ!?」



 何を勘違いしたのか私の逆鱗に触れた戸川の首を踏み潰し、垂れた前髪をかき上げて答える。



「私が一番嫌いな言葉なんだ」



 意識を刈り取られた戸川の腹に脚を乗せてソファーに座ると、私は電話をかける。



「あぁもしもし? うん、終わった。うーん、どうだろうね。とりあえず船乗せて。使えたらそのまま働かせて、使えなかったらいつも通り。じゃ、よろしくー」



 電話を切り、ため息をつく。私の脚の下にはボロ雑巾になった戸川がいる。私がやった。私が行った、悪事だ。



「……まだ終わってない」



 まだ仕事は残っている。園咲家の関与が明らかなのに、ネットで拡散してはいおしまい? 甘すぎる。隙を残してはいけないのだ。しっかりと、もう立ち直れないように制裁しないと。



 それが私の仕事だ。早苗の幸せには園咲家の栄光が最低条件。そのためなら、私は何だってやる。ジンができないような、悪事でも。そう。それが仕事なのだから、仕方ない。



 そう諦め、私は片付けを始めた。

本編では描き切れなかった戸川くんの末路です。かわいそうですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戸川くんは自業自得なので可哀想ではないですよ
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