お姉ちゃんになれない姉
〇グレース
「わらひのジンくんかっこよすぎじゃないれすかぁ?」
私たち六姉妹は、1週間に二度は集まって談笑する。それは決まりではなく、ただ単に仲がいいから。大企業の娘たち、って考えればかなり仲のいい姉妹だと思う。
そして今日はジンくんが来てから初めての姉妹会議。私の部屋に姉妹だけで集まり、未成年でも食べて大丈夫なウイスキーボンボンを肴に談笑している。未成年でも大丈夫というのは法律の面。アルコールに極端に弱い私の妹たちは、一口食べただけで顔を真っ赤にしてふらふらしていた。
「ジンくん……ぅへへ……わらひ幸せれすぅ……」
早苗ちゃんはどこかから持ってきたのかクマのぬいぐるみを抱き、涎を垂らして頬で擦りつけている。幸せそうで何よりだ。本当に心の底から好きなのだろう。
「お義兄さん……優しいよね……。優しいだけじゃなくて……かっこいい……」
人見知りの玲ちゃんにしては珍しく、どうやらお気に入りの様子。いきなり知らない男の人が家族になるってことで初めはかなり緊張してたみたいだけど、こんなに早く懐くなんて。ジンくんと個人的に何かあったのだろうか。
「今度一緒にスイーツ作ることになったんだ……たのしみ……」
いや懐いてるっていうより……恋に近いのかもしれない。憧れていると言った方が正しいか。何にせよまだ自覚していないのだろう。それで早苗ちゃんとぎくしゃくするようになったらやだなぁ……。
「はっ! あんな男のどこがいいのか全くわからないわねっ!」
珍しいと言えば愛菜ちゃんも同じ。憎まれ口を叩くのはいつも通りだけど、なんだか少し楽し気だ。
「まったくでしゅね! 私の方がすごいでしゅ!」
そして一番おかしいのが杏子ちゃん。いつも大人な杏子ちゃんがウイスキーボンボンを食べているとはいえ張り合っている。元々負けず嫌いなところはあるけど、そもそも負けることがない。ジンくんがあからさまに対抗心を燃やしているというのもあるけど、こういう一面もあることに驚きだ。
「ねー! くるみもおにいちゃん大好き!」
来海ちゃんにはさすがにあげてないけど、素直に懐いているみたい。まぁ来海ちゃんは誰にでも懐くけど。
「お姉ちゃんはジンくんのことどう思ってるんですかー……? ジンくん好きになるのはかっこいいから仕方ないけど……手を出したら許さないですよー……?」
「お姉ちゃんか……」
私は妹たちと違って、園咲の血が流れていない。だから平常心で答えられるけど……何て言うべきか。
好きか嫌いかで言えば好きだ。早苗ちゃんに真摯に向き合っているし、早苗ちゃんを任せられる。でも少し、気に入らない。
私とジンくんは同じだ。園咲の血は入っていないけれど、園咲に拾ってもらった。そしてどちらも、古くから園咲に仕えている武藤家には認められていない。
それでもジンくんは問題ないのだろう。無理矢理にでも認めさせることができる。早苗ちゃんのために、そうするだけの覚悟がある。
でも私には、それがない。もうとっくに諦めた。この子たちの姉だからこそ、諦めざるを得ないことがたくさんあった。だから私は諦めた。妹のためなんていう建前があったからあっさりと身を引き、侑だけいればいいやと適当に笑い、外から明るく見ていた。
彼を見るとどうしても考えてしまう。私にも違う未来があったのかと。長女として認められる未来があったのかと。
別に当主になりたいわけではない。ただ私は……もっと……。
「お姉ちゃんも好きだよ。恋愛対象ではないけどね」
なんてことは言えないのでいつも通り。適当に身を引くことにした。
少し暗めの番外編でした。グレースさんのことは後々続編で触れたいと思います。あと他の姉妹たちのことも!
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