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寺門の罪

第1章最終話の続きの話です。

〇杏子




 こうなることを予期していなかったわけではない。むしろこうなる可能性を考慮し、風花に頼んで武藤家を調査してもらっていた。でもこんなに早く、こんなに短絡的に。そしてお義兄さんが解決できるとは思っていなかった。



「杏子様……お願いです! 園咲家を復興させるにはあなたの力が必要です! 早苗、グレース! 紛い物を全て打ち崩し、あなたが次期当主になってくださいっ!」



 肩から血を流し、目から涙を流す老人が土下座のような体勢で懇願する。それを見て私は、ほとんど何の感情も覚えなかった。



 早苗姉さんとお義兄さんは車から下ろされ、グレース姉さんが運転してきた車の中で慰められている。早苗姉さんたちが姿を消し、いち早く誘拐だと判断した私はグレース姉さんと侑さんに頼み、車を出してもらっていた。そして駆けつけたらこの状況。武藤家でも保守派と言われる人たちが肩から血を流し悶えていた。



「杏子様、お下がりください」



 仕事モードの風花と侑さんが私を危険人物から遠ざける。他の人が来るまであと5分ほどだろうか。私の役目はそれまでこの3人を逃がさないこと。そして、



「私は当主になるつもりはありません」



 この人たちの心を折ることだ。



「な、なぜ……! あなたほどの聡明な方ならお分かりのはずだ! 園咲家の現状が! 無名で常識のない下卑たる人間の血を園咲家に入れようとする馬鹿げた者たちを排除しなければ園咲家に未来など存在しないっ!」



 この人たちは過去を見ている。父さんが外国人の母さんを選んだことが気に食わず、未だそのことを中心に動いている目が後ろについている人。別に誰もやりたくないなら当主になってもいいと思っているけど、それを言ったらこの人たちは救われてしまう。



「なぜって、決まっているでしょう。あなたのせいですよ、寺門さん」



 早苗姉さんを殺そうとした罪が。法律によって裁かれるだけで済むと思うなよ。老害共。



「私は次期当主になるつもりでしたし、そのための行動をしてきました。そしてその地位を確固たるものにしてきた。全ては盤石だったんです。でもあなた方のせいで失敗に終わってしまいました」

「そ……れは……!?」


「早苗が消えて助かるのは私です。すなわちこの誘拐は私の命で行われた。あるいは関わっていると思われても仕方がない状況なんです。それに加え、朝食時のあなたの言動に、血統主義、差別的発言。こんなことをしてしまえば、あなたが支持する私の印象が悪くなるに決まっているでしょう?」

「あ……あ……!」



 この人たちに一番効くのはこれだ。自分のせいで、園咲家の未来が失われた。まぁ実際その通りではあるけれど、それを自覚させてあげないと。牢屋にいる間暇をしないように。



「あなたのせいで園咲家次期当主は早苗になり、実権は塵芥が握るでしょう。きっとあなたが出て来る頃には、園咲家という名前が消えていることでしょうねぇ」

「ああああああああああああああっ!」



 狂ったように泣き叫ぶ寺門を見ても、やはり何の感慨も沸かない。たくさんお世話になったんだけどな。きっと早苗姉さんなら誘拐されてもこの人のために涙を流すこともできるんだろうけど、私はそうじゃないから。



「私は跡継ぎ争いから抜けます。あなたのせいで」



 やっぱりそうするべきなんじゃないかと思う。



「風花、侑さん。ここは頼んだよ」

「かしこまりました」



 2人に頼み、私は早苗姉さんたちの方へと向かう。私の独断で保守派の人たちを大量に呼んでおいた。これで保守派はおとなしくなるだろうし、お義兄さんを非難する人の数も減るだろう。



「グレース姉さん、早苗姉さんたちの様子は?」

「ん? 見てよこれ」



 助手席から後部座席を覗いてみると、泣き疲れたのか眠っている早苗姉さんとお義兄さんがいて。



「いいなー、私も彼氏ほしい」



 こんな風に安心して眠れる人を心底羨み、車のドアを閉めた。

また時間を置いて寺門さんの話は続けたいと思います。おもしろい等と思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークといいねのご協力よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 保守派と言えば聞こえはいいが内情は良く言えば現状維持悪く言えば問題の先送り的思考なんですよね。 この貴族的思考ってホントキチガイ染みたやつ多いよな。有名なのは青髭のジル・ド・レと血の伯爵夫…
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