第4章 最終話 前撮り
「早苗、大丈夫だったか?」
「はい、ありがとうございます」
2人で車から降り、伸びをする。辺りは木々に囲まれているが、そこまで山の中を進んではいない。じーぴーえす? とやらですぐに誰かが来てくれるだろう。
「さてと……」
一度ため息をつき、元両親を見る。事前に車の中に仕込んでおいたロープで縛りつけられている、16年間共に過ごした自分の両親を。
「まっ……待ってくれ……! 俺たちはお前の親だぞ……!?」
「そうだ! またみんなで暮らしましょう! 家族7……えーと……」
今さら親面している親父と、家族の人数すら言えないお袋。そんな2人と目線を合わせることはできない。脚の都合と、それ以前のことのせいで。
「お願いだ! 父さんたちを許してくれっ! 少し魔が差しただけなんだっ!」
「きっと話し合えばわかるわ! だって私たち家族なんですもの!」
「もう遅い、とは言わないよ」
そうだ。遅くなんかない。ただ、
「それをするには、早すぎる」
俺がこいつらと家族に戻る日が来るのであれば。それはこいつらが罪を償った後だ。今の俺はこいつらの息子として、責任を果たさなければならない。
「でもお前らみたいな極悪人がいつ出てこられるかはわからないからな……。早苗、盗品は無事か?」
「はい、見た限りは大丈夫です」
早苗が手提げ袋の口を広げると、俺はそこから一つ、取り出す。
「早苗、少し付き合ってくれるか」
「はい。ジンくんとなら、どこまでも」
俺は成功したかった。幸せになりたかった。そう願ったのは自分のためではない。始まりは、こいつらを見返すためだった。それに、
「結婚式は親のため、ってのもあるらしいからな。お前らを呼ぶつもりはないし、来るつもりもないだろうけど……一応産んでくれて育ててくれたから……。いや、片方とは血は繋がってないし育ててもらった記憶はないんだけど……とにかく。お前らに、見ていてほしい」
自己満足。俺のよくばりなわがまま。でもこれが俺のけじめだ。
「盗品だし一つしかないけれど。受け取ってもらえるか?」
「喜んで」
早苗が白い左手を差し出してくる。それを手に取ると、細く綺麗な薬指に、盗まれた白銀の指輪を嵌める。俺から指輪を受け取った早苗は、それを見つめてはにかんだ。
「ふふ、困ってしまいました。こうなってくると返したくなくなっちゃいます」
「ちゃんとした結婚式をやる時はもっと良い物を買うよ」
「これ1000万以上しますけど大丈夫ですか?」
「……がんばります」
互いに笑い合い、誓い合う。
「病める時も健やかなる時も、地獄の底でも」
「一緒にいましょうね、ジンくん」
そして俺たちは口づけを交わした。