第4章 第2話 よくばり
「ここが私とジンくんと斬波の部屋です!」
早苗に連れられ、俺と斬波は2階の和室に通される。部屋の大きさ的には普段俺が使っている部屋と同じくらいだろうか。つまり充分すぎる。
「ていうか女子と同じ部屋って……」
「和室だから意外と声が外にも漏れるんだよ。それでも変なことをするような奴には、ってことじゃないかな」
「なるほどね……」
信頼されている、というより試練みたいな感じか。俺は大丈夫だが早苗……いやこの場合は斬波かな……。しっかり節度を保たないと……。
「とりあえずおじいさんや斬波のお父さんたちにちゃんと挨拶したいんだけど……」
「今日は難しいかもですね。おじいさまや波郎おじさんはパパと話すでしょうし」
「じゃあ仲いいんだ」
「どうでしょう。私はむしろ逆だと思っています。パパがママと結婚する時も引っ越す時も大喧嘩したそうですし。一応認めてはもらったそうですが、だからといって仲直りしているとは見えません。よくはわかりませんが」
親と子の仲が悪い。そんなことは別に何とも思わない。別に珍しい話だとも思わないしな。ただなんか……。
「そんなことよりジンくん! この辺り見て回りませんか? 私、結構自然好きなんです!」
「うん、いいよ。昼食までまだ時間あるしな」
「あぁそれならさ、ちょっとおもしろいものが見れるよ。良い人、には見たくないものかもしれないけど」
そう言われたら少し気になってしまう。屋敷の中はエレベーターもないので杖で階段を降り、1階に向かう。そこで俺は。
「あはははははっ! 似合わねぇぇぇぇははははっ!」
早苗の実家だということも忘れてめちゃくちゃに笑ってしまった。
「なんであんたがここにいんのよ……!」
「つーか笑ってんじゃねぇぞオイ!」
安っぽい着物を着て掃除に勤しむ2人。それは間違いなく俺の兄妹。イフリートとアクアだった。
「なんで髪黒くなってんの……くく。駄目だ……似合わなすぎておもしろい……!」
「しょうがないでしょ無理矢理染められたのっ!」
「ていうかなんでここにいんだよ。骨折れたんじゃなかった?」
「ここで雑用しろって言われたんだから仕方ねぇだろ。他の奴らは農業やら工事やら行ってる。骨は……治った」
「治ったんだ……無駄に身体強いな……俺たち」
「あんたは……何でもない」
……意外だ。アクアのことだからお前は脚治ってないけどな! 身体強いのは父親の遺伝子のおかげだよ! とか言われそうな気がしたんだが……。
「んなことより! こんなとこもういられない! あんた偉いんでしょっ!? あーしらを解放してよっ!」
と思っているとさっそく泣きついてきやがった。これが目的か……?
「朝5時に起きて掃除! 昼食べたら掃除! 夜食ったら掃除して風呂入って即就寝! こんな健康的な生活あーし耐えらんない!」
「お前4時寝12時起きとかだったもんな。これを機に朝型にしとけよ。俺だってがんばって2時寝4時起きを1時寝4時起きにしたんだぞ」
「あんたみたいな馬鹿と一緒にすんな! こっちは普通の人間なのっ! もう耐えらんないのっ!」
「って言ってもここホワイトだろ? ちゃんと休日はあるんじゃ……」
「だから! こっちは毎日ぐうたらしたいんだって!」
「知らねぇよざまぁみろ。少しは規則正しい生活をして更生するんだな」
「助けてよ……お兄ちゃん……」
「斬波……ちょっと軽くしてあげても……」
「ジン、あんたチョロすぎ。ていうか今の私にそんな権限ないし。言っとくけどこいつらが逃げ出したら私のこと雇えなくなるんだからね。こいつらと私、どっちが大事か考えてね」
「自信満々な発言だな……。でもそうだな……アクア、イフリート。お前らみっちり働けよ! 俺デートしてくるから!」
「クソ兄貴! 死ね!」
何やらアクアが惨めにわめいているが知らん。車椅子に乗り換えて外に行く。
「ジンくん、うれしそうですね」
「そりゃな。俺を虐めていたあいつらが苦しんでるんだ。めちゃくちゃうれしいよ」
「……そういう風の笑顔には見えませんが」
「……あいつらが苦しんでいることがうれしいのは事実だよ。ざまぁ! とも思ってる。でもまぁ……なんて言うんだろうな。今までは普通に話すことすらできなかったから。ああやって兄妹と話が通じたことは……素直にうれしい」
畑や田んぼが囲み、奥には山が構えてあるそんな景色を進みながら、俺は言う。
「もしかしたら俺は家族がほしかったのかもしれない。いたんだけどな。面倒をかけて……かけられて。それでも笑い合えるような、普通の家族。もちろん園咲家は俺の家族みたいなものだと……ありがたく思わせてもらってるけどさ、でも……。あいつらとも家族になれたらって。欲張りかもしれないけど、思うんだ」
「ご主人様っ!」
突然斬波が。仕事モードになり、俺の前に出る。
「なに? どうした? なにが……!?」
この土地には園咲家の本邸がある。あれだけの名家だ。付近にはいくつも土地を持っているだろう。
だから、おかしくはない。土地を貰い受けた、あいつらがいても。
「親父……お袋……」
目の前を歩く2人。見間違えるわけもない。間違いなく、俺のクソ両親だった。
なんだ。あいつらは何をしてくる。俺は何をすればいい。
どうすれば、あいつらとも――!
「おや……」
「あ? お前誰?」
両親が、通り過ぎていく。一度も立ち止まることなく。一秒も興味を持つことすらもせず。俺の視界から、消えてなくなった。
……まだ1ヶ月だぞ。それまで仮にも16年間。一緒にいたんだぞ。それが……なんだ。この……程度だったってのか。俺が殺したいほど憎み、それでも一緒にいられたらと願ってしまう家族は。この、程度で……!
「ジンく……」
「早苗っ!」
車椅子から転げるように立ち上がり、後ろの早苗に抱きつく。どうしようもなく早苗に触れたかった。斬波の手前申し訳ないけれど、どうしようもなく早苗を見たくなった。だから……俺は……!
「大丈夫ですよ。ジンくんが何をしようと、何を考えようと。私たちはジンくんの家族ですから」
「うん……!」
第4章スタートしました! そして今章の敵、そしてラスボスの登場! まだ溜め回ですが、これから元家族と対峙していきます。アクアちゃんたちへの報復が甘いと思っている方はぜひお待ちください。
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