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第3章 第12話 同罪 2

「ジン……どいてよ……。そいつ殺せないでしょ……」

「俺は絶対に譲らない。これ以上お前に人を傷つけさせない」



 燃え盛る工場の中、俺は斬波と対峙する。このままここにいれば全員死ぬ。だからどこかで譲らなければならない。問題は誰が、だ。



「チッ! 言っとくけど塵芥! これで終わりじゃないかんね!」



 100万の回収は無理だと判断したのだろう。アクアが持てるだけの金を持ち立ち去ろうとする。その頭上から、



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 炎に焼かれ、砕けた機械が降ってきた。



「瑠奈ぁっ!」

「こっちは大丈夫です! 先輩も早く逃げてください!」



 2階にいた瑠奈さんが、両腕に玲さんと杏子さんを抱えながら叫ぶ。背中には襲ってきた男の姿もある。あっちは無事だろうし、武藤家の人たちもこの燃える速度なら安全に脱出できるだろう。だが……。



「痛い! 痛いよぉっ! 助けて! お兄ちゃんっ!」

「っ……!」



 瓦礫に脚を潰され。泣き叫ぶアクアの声がすぐ後ろにある。このまま放置したら。ここからでも感じる炎の熱に焼かれ、死んでしまうだろう。



「ジン……妹を助けようとしてるでしょ」

「斬波……」



 本物か偽物かはわからないが、斬波は拳銃の銃口を俺から逸らさない。



「……ジン。あんたは良い人だよ。だから私がやらなくちゃいけないんだ」

「違うな……俺は悪人だ。自分を虐げてきた家族が死んで……せいせいする。だからこれは脚の痛みで動けないだけで……」

「なら。邪魔しないでね」



 斬波がゆっくりと歩を進める。放っておけば消えるアクアの命を、自分で奪うために。



「…………。…………! ……まっ――!」

「今助けるからねっ!」



 言葉が漏れそうになったその瞬間、山村がアクアの脚から瓦礫をどけていた。



「私たちは脱出するから! あなたたちも早く逃げて!」



 そして山村はアクアとイフリートを抱え、工場から逃げ出す。銃口を向ける斬波を背中にして。



「殺す……! 殺さなきゃいけないの……!」



 念仏のようにそう唱えていた斬波の腕はプルプルと震え、



「なんなのよ、もう……!」



 やがてその手から、拳銃が零れた。



「もう自分でも自分がわからない……! 私は……私は……!」

「なら。いい判別方法がある」



 ただ2人残された俺たちにとれる選択肢。そしてそれを選ぶのは、斬波だ。



「さっきは強がったけど、さっき飛び降りた衝撃で。俺の脚はもう動かない」

「は……!?」


「だからこのまま俺を見捨てれば。邪魔な俺は消せるし、傷心した早苗の心を癒して自分の物にすることができる。お前が悪人だっていうのなら、迷わずこっちを選ぶはずだ」

「…………」



 斬波は俯き、俺から視線を外す。何を考えているのかはわからない。何を選ぶのかは論ずるに値しないが。



「だけどお前が良い人なら。俺を助けることもできる。ただしその場合は一つ契約を結ばせろ。それを選ぶなら、お前は俺の専属メイドになる」

「……後者の場合、具体的に何をすればいいの?」


「別に今まで通りだ。朝みんなより早く起きて仕事をして、みんなで学校に行って、早苗と昼飯食って、みんなで学校から帰って、ご飯を食って仕事をして、寝る前に俺と少し談笑する。早苗がお前を選ぶかはわからないが……少なくとも一緒にはいられる。あと見たことないけど早苗と一緒に吹奏楽部入ってるんだっけ? それもやろう」

「……それは。あんたから見た私でしょ。本当の私は、もっと悪いことを……」


「俺が知る斬波をメイドにしたいんだからそうなるに決まってんだろ」

「ほんと……そのままなら私、良い人みたい」



 俯いていた斬波が自嘲気味に一度笑い、ゆっくりと顔を上げた。



「一つ、付け加えさせて」



 その顔は後悔や懺悔の色に満ちながらも。



「私、ほんとは軽音楽部に入りたかったんだ」



 それでも必死に笑っていた。




☆☆☆☆☆




「お姉ちゃん! ジン先輩!」



 斬波に背負われながら工場を出ると、瑠奈さんが手をブンブンと振ってくる。見た感じ武藤家に負傷者はいなさそうだし、倒れている20人近い男たちもとりあえずは死んでいなさそうだ。イフリートやアクアも怪我はしているが、死ぬほどではないだろう。



「……まったく。まさかこんなことになるなんて、思ってなかったよ」



 俺を背負いながら斬波がため息混じりにつぶやく。でも僅かに見える横顔に全く悲痛の色はない。ならもういいか。



「斬波、下ろしてくれ」

「何言ってんの。2階から飛び降りて脚動かせないんでしょ」


「ああ、あれは嘘だ。よく学校で飛び降りさせられてたからな。3階くらいまでならほとんど無傷でいられる」

「はぁ……。ほんとにやられた」



 斬波が力なく屈み、俺は杖を持って立ち上がる。



「まぁでも斬波の決断に従おうとは思ってたよ。その結果死んでもさ」

「あんたみたいなマウント取りが自分から死ぬわけないでしょ。私が助けること疑ってなかったくせに」

「まぁな」



 斬波の隣に立ち、笑う。斬波と同じように。



「お前が善人でよかったよ」

「こっちの台詞だよ、ご主人様」

明日は第3章終了、あるいは物語終了になります。前者なら一話更新、後者なら二話更新の予定です。まだ決まっていません。


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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませていただいているので、できれば続いて欲しいです。 せめて分かりやすくちゃんと幸せになりました…まで読みたいです。よろしくお願いします。
[良い点] あれ?これは斬波√ある?
[気になる点] 山村さんの偽善パワー殺されかけた二人を抱えて燃えさかる工場から脱出? アクアとイフリートは障害残してこれ以上ジンに関わりにくくして欲しいですね。 [一言] 家族への完全リベンジと早苗さ…
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