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第3章 第9話 幸福追求権

「おはよう! 須藤くん!」



 朝学校に行くと、笑顔の山村が出迎えてきた。何の悪気も感じない、爽やかな笑顔。



「確かに須藤くんは虐待されてたのかもしれない。でもやっぱり家族は一緒にいるべきだと思うんだ。それに妹さん心配してたよ? もしかしたら須藤くんにも悪いところがあったんじゃないかな。でも人と人が話し合えばわかりあえないことなんてないの。私も行ってあげるから仲直りしよ?」



 本当に信じているんだ、山村は。たとえ虐待されていたとしても家族は一緒にいた方がいいって。山村の言っていることは間違っていないのかもしれない。ちゃんと話し合って和解できたなら、一緒にいた方がいいのかもしれない。本当に素晴らしい正義の持ち主だな。



「山村、お前のこと訴えるから」



 ならこっちは、さらに絶対の正義で押し潰すだけだ。



「う……訴える……!?」

「当たり前だろ。他人の電話番号を勝手に教えたんだから。プライバシーの侵害だ」


「で、でもプライバシーの侵害は犯罪には……」

「それ単体はな。だがお前は、俺から金を不当に奪おうとしている奴の犯行を手助けした。知らなかったじゃ済まされないぞ。お前は俺が家族から虐待を受けていたことを知っていた。それにも関わらず、電話番号を教えた。これは俺への暴行へと繋がると容易に想像がつくはずだ」


「そ、そんなつもりじゃ……!」

「ならそれを証明してみせろよ。法廷で」



 こういう善意で悪いことをするやつの対処法を俺は知らない。だが弱点はある。それは正義が自分の倫理観によるというもの。だから馬鹿にでもわかる絶対的な正義。法律で対処することにした。



 だが法律そのものは正義ではない。早苗が東山高校でやったように通じない時もある。悪人はそれ単体では効果はないが、善人には。そうではないだろう。



「ごっ……ごめんなさいっ! ほんとに……ほんとに悪気はなかったの! ただみんな幸せになれたらって思っただけで……ごめんなさいっ!」

「謝って済むなら警察はいらない、ってな。なんで俺が1人で学校にいると思う?」



 山村は必死に理由をこねくり回して正当化しようとするだろうことは想像に難くなかった。ということで、最強の手札は既に切ってある。



「この悪者ー! おねえちゃんを返してよー!」

「返せ返せー」



 高2の教室に入ってきたのは小学3年生の来海ちゃんと、冬子ちゃん。正義マンにはこういうのが効くだろう? 涙を流したかわいそうな子どもが。



「返せって……どういうこと……?」

「夜中にうちの家族から電話がかかってきてな。早苗が自分が悪いって自殺未遂を起こした。今は斬波が見てくれているけど……当分目を覚まさないかもしれない」



 本当は斬波に退職届を渡されたショックでいまだ目が覚めてないだけだが、まぁ似たようなものだろう。



「お前のせいで人が1人……いや。早苗が死んだら斬波も、俺も、家族も。到底生きていられない。わかるか? お前が良かれと思ってやった行動が。たくさんの人を苦しめてるんだ」



 俺の視界から山村の姿が消える。床に膝をつき、頭を抱えて泣いていた。あと一押しだ。



「ごめんなさい……! ゆるしてくださいぃぃ……!」

「散々正義ぶっておいて、いざ自分が悪者になったら許してくれなんて、そんな都合のいいことが許されると思ってんのか?」



 土下座するように蹲る山村に対し、俺は容赦ない言葉を浴びせる。作戦は抜きにしても、これくらい言わないと気が済まない。そう。俺には作戦があるんだ。



「いいか、ゴミ人間」

「ゴミ……!?」

「当たり前だろゴミ女。お前に罪を償わせてやる。これをやってくれるならお前を訴えるのはやめてやるよ」



 アクアは山村をカモだと言っていた。そしてその認識は正しい。だからカモにネギを背負わせてやる。ただしそのカモに、毒を食わせて。



「お前が1人でアクアたちのところに行って土下座してこい。金がなければお前は殴られるだろうが、安心しろ。奴らが油断した時に、俺たちがアクアを攫ってやる」

「攫うって……犯罪じゃ……」


「お前がやったことだって犯罪だって言ってんだろ。もうお前は善人には戻れない。俺たちを傷つけるのか、奴らを傷つけるのか。二つに一つだ。ただし前者は罪が全世界に公開されるが、後者なら俺たちだけで収めることができる。さぁ、選べよ」

「ぅ……うぅ……!」



 悩んでいるのか、山村は蹲ったまま頭を抱えて震えている。でも答えなんてわかりきっている。なぜなら。



「攫うのに……協力する……!」



 人は自分の幸せを追求する生き物だからだ。



「よし、決まりだな……ん?」



 スマートフォンが震え、確認してみると。斬波から一枚の写真が送られてきた。



 そこでは目を覚ました早苗がベッドの中で斬波の胸に顔を沈め、逃がさないように背中に手を回している。



 そして抱きつかれている斬波は幸せそうな顔で自撮りしており、『私の勝ち』。と追加でメッセージを送ってきた。



「今日のところは譲ってやるよ」



 イチャイチャしている2人の写真に囁き、俺は。自分の幸せのために、再び自分の家族に向き合う覚悟を決めた。

ジャンル別日間7位、週間4位にまで落ちてましたが……月間1位になりました! やったぁ! 日頃応援していただいている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


そして始まった解決編! 本当は早苗さんとのイチャイチャ編のつもりでしたが、いつの間にか斬波メイン編になっている気がします。ここからどんどん復讐するぞ!


おもしろい、続きが気になると思っていただけましたらぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークといいねのご協力お願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 山村は正義ではない 独善という悪の存在 きっちり締めてくれてスッキリ
[一言] おい山村一つ良い事教えてやるよ!戦後アフリカで大飢饉が起きたの知ってる?そしてその原因は知ってるかね?! 原因はアメリカの女性団体が何の知恵のも無く天然痘の伝染病のワクチンを与えて接種して本…
[良い点] 嘘を言って他人に誘拐の助けをさせる これ、バレたら主人公が捕まるやつやん
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