第3章 第5話 部活
「須藤くん、部活ってもう決めた?」
放課後。さっさと早苗と斬波と帰ろうと思っていると、突然山村さんが隣の早苗の席との間の通路に割り込んでそう訊いてきた。
「……いや、別に。元々やってなかったし……」
個人的に山村さんはあまり好きではない。だが悪人ではない。無碍にするのも気が引けたので普通に答えると、彼女は目を輝かせた。
「ちょうどよかった! 私、ボランティア部に入ってるんだけどよかったらどう?」
「ボランティア? いやいいかな。山村さんは気に入らないだろうけど、俺は労働の対価に金をもらわないとやってけないタイプだし」
「安心して! 今日は休みだけど同じクラスの車椅子の子も普通に活動できてるから!」
「いやだから……そもそも興味がなくて……」
「さっき言ってたけど、虐待を受けてたんでしょ? 保護施設やご高齢の方がいる施設、身体に不自由な方が通っている施設にもボランティアに行っているの。須藤くんみたいに車椅子でも普通に学校に通えている人を見たら、きっと同じ障害を持っている人にも勇気を与えられると思うの!」
「んー……それは立派だと思うよ。素晴らしい活動だと思う。でも別に俺は勇気を与えたいとかは思ってないし、そんな人が行っても迷惑だと思う。たとえば俺は杖をつけば歩けるし、最悪なくてもギリ歩ける。でもそうじゃない人もいるわけだろ? そんな人に君もがんばれば俺みたいになれるよ、とか言うのは失礼だと思うんだ。行くのはいいけど勉強してからがいいし、部活にするほどじゃないかな」
「大丈夫! 私がサポートするから!」
「…………」
なんだろう。やっぱり会話ができないな。それに斬波の気持ちもわかってきた。正しいことをしている人に自分の都合を言うと、自分が悪いみたいに思えてくるんだ。
ボランティアは無償で誰かのためになるしやった方がいいに決まっているが、だからといってやらなければならないというわけではないと思う。でも善か悪かと言われれば、ボランティアをしないというのは悪なわけで。中々難しい話だ。
「あの! ジンくんは私と一緒に吹奏楽部に入るんです! 勝手なこと言わないでください!」
なんて返せばいいのか迷っていると、早苗が助け舟……というより自分の要望を突きつけた。
「吹奏楽なら多くの人を楽しませることができるわね。そういうことなら致し方ないわ」
しかもなぜか納得したようで山村さんは帰っていく。本当に悪気はないし、世の中の役になるようにがんばっているんだ。俺にはできない生き方である意味尊敬する。
「さぁジンくん、私や斬波の部活、吹奏楽部に行きましょう!」
「それも初耳なんだけどな……」
吹奏楽部……確か楽器で演奏するんだよな。やっぱり勉強に関係ないことはどうにも知識が薄い。あまり詳しくないのでちゃんとは言えないのだが……。
「ごめん、音楽には興味がなくて……」
「あ、そうなのですか? でも大丈夫です! 私と一緒にがんばりましょう!」
「早苗、山村と似た感じになってる」
俺も言おうと思ったが、斬波がため息混じりに告げてくれた。
「ジンの興味あることやらせてあげなよ。それが部活ってもんでしょ?」
「で、でもずっと一緒にいるって……」
「じゃあ大人になって働いてからもそうやって言うわけ? だから私は2人の結婚は反対なの。会えない時間を楽しむのも大事だと思うよ。ていうか文字通りずっと一緒にいたら落ち着く時なんてないって。ただでさえジンは私と同室なんだからさ」
「う……そうですね……我慢します……」
……斬波だけに言わせるのも申し訳ないな。
「早苗……ごめんだけど俺も別の部活がいい」
「ジンくん……」
「でもそれは早苗と一緒にいたくないからじゃない。色んな世界を見てみたいんだ。みんなが言うように俺には常識がない。将来のために勉強しかしてこなかったから。……だから自分がやりたいことを自分で見つけてみたい。この学校に来て色々な価値観を知って、初めてそう思ったんだ。俺のわがままを許してくれるか?」
「……わかりました。でもせめて一緒に探させてください。ジンくんのことをもっと知りたいんです。……ジンくんも私のわがまま許してくれますか?」
答えなんて聞く必要ない。お互いだ。
「では善は急げです。風鈴学園は基本的に小中高大同じ部活で活動してるんですよ。色々な年代の人がいますから、きっと刺激になるはずです!」
「ああ、ありがとう」
こうして俺の部活探し兼、俺と早苗の学校デートが始まった。
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