第3章 第1話 新学校
「きゃーっ! ジンくんかっこいいですっ!」
「そ、そう……?」
アクアの事件が起きた1週間後のさらに1週間後。俺が早苗たち6姉妹が在籍する私立風鈴学園の高等部に転校し、初めて通う日だ。俺が風鈴学園のベージュ色のブレザーに袖を通すと、早苗がぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
「それにしてもジンくん、転入できてよかったですね!」
「そりゃあ全国1位だからな!」
「ずっと言ってますよねそれ。私でさえもう褒めないのでやめた方がいいですよ?」
ぐっ……! いいだろ別に……! これくらいしか自慢できることないんだからさ……!
「さぁ、では行きましょうか。私たちの幸せスクールライフの開幕です!」
そんな会話をし、バカデカ高級車に乗ること約20分。
「やっぱでかいな……」
風鈴学園に到着した。
「それではまた」
風鈴学園は小中高大一貫校で、車道なんかに阻まれてはいるが一応同じ敷地にあると言える。だが当然場所は離れており、まず車椅子の俺を下ろすために高等部近くに着き、俺、早苗、斬波、玲さん、瑠奈さんの高校生組が校舎へと歩く。
「にしても綺麗だよな……」
いわゆる金持ち学校と言うのだろうか。とにかく綺麗だし白い。外壁にひびや汚れのようなものはなく、ゴミなんて一つも落ちていない。東山高校とは学生の質が違うというところだろうか。偏差値的には大差なかったと思うんだがな……。
「ではまた放課後に」
「う……うんっ……」
そして1年生の玲さんたちとも別れ、2年生の3人だけになる。
「押してもらわなくても大丈夫だよ」
「いいえ、私に押させてください。困った時はお互い様ですから」
風鈴学園内にはエレベーターが所々にあり、小さな階段の横にはスロープもある。転入試験の時には1人で教室まで行ったが、驚くことに2年生の教室がある3階にも自力で行けた。早苗曰く今時これが普通、らしいのだが、どうにもまだ慣れない。元の学校では下駄箱にも行けなかったからな……。
「私たちはみんな同じクラスです。ずっと一緒にいましょうねっ」
「へぇ……すごい偶然だな」
「そ、そうですね……すごい偶然です……」
どうやら偶然ではないらしい。園咲家の力でも使ったのではと思っていると、斬波が耳打ちしてきた。
「学校からの厚意だって。助けてくれる人がいた方がいいだろうって」
「そんな気にしなくていいのに……」
どうにも俺が育っていた環境とは違いすぎてやはり慣れない。どうしてこんなにも親切なのだろう。園咲家に睨まれるより、というのもあるとは思うけど……ないのかもしれない、と思ってしまうのがすごいところだ。
「でも早苗、ジンはまず職員室に連れてかなきゃいけないんじゃないの?」
「そうでした! 行先変更です!」
ということでこれまた大きくて綺麗な職員室に行くと、
「お前が須藤だな。私は2年A組担任、佐々木由紀だ。よろしく」
風鈴学園の雰囲気にはそぐわない若いが大人っぽい女性の先生が出てきた。
「園咲と武藤は教室に戻れ。すぐに私たちも行く」
「わかりました! ではジンくん、また」
「ああ。連れてきてくれてありがとう」
早苗と斬波を見送ると、佐々木先生がため息をついた。
「あいつのあんな笑顔初めて見たな……」
「……普段は静かなんですか?」
「いいや、あいつ見た目だけはいいからな……深窓の令嬢って感じだよ」
見た目だけはいい。悪口にも感じるが、その言葉だけで早苗のことを理解していると信頼することができる。本当に見た目だけはいいけど根本はただの天然だ。
「言っとくけど私はお前が歩けなくても特別扱いしないからな。配慮はするが、あくまで普通の生徒。園咲もだ。それが嫌なら……」
「いえ、そっちの方がありがたいです」
「そう言ってくれて助かるよ」
先生はそう言うと、さっそく俺の車椅子を押そうとする。
「それも大丈夫ですよ。1人で動かせます」
「そうか? うちのクラスにはもう1人車椅子の奴がいるんだが、そいつは自分じゃ動かせないらしいからな。まぁ当たり前に個人差があるか。あぁそれと、名前の件は話を聞いている。通名でいいからな」
「ありがとうございます」
先生に離してもらい、エレベーターを使って教室に行く。
「生徒はみんな優しいからな。まぁ普通に仲良くなれるかはお前次第だ」
「はい……がんばります」
先生に促され、教室に入る。すると東山高校のものとは違う、様々な機械が置かれた便利で綺麗な教室が姿を現す。そして教卓の横で俺は言う。
「はじめまして。須藤ジンです。よろしくお願いします」
俺が車椅子から立ち上がって頭を下げると、先生がモニターになっている黒板に俺の名前を書いた。こうやって見ると改めて実感する。塵芥、という名前はもう捨てたのだと。
「お前の席は園咲の隣だ。最後尾だし車椅子は動かしやすいだろう」
「何から何までご配慮ありがとうございます……」
思わず心の底からの感謝が出て、車椅子が余裕で通れるほどに開いた机の間を通って最後尾中央の席に行く。右隣には早苗が。そして前には斬波の姿があった。
「1限目はホームルームだ。だから園咲、武藤。お前たちは須藤に学校を案内してやれ」
「……先生。私は今日お腹が痛いので教室にいます」
佐々木先生がそう言うと、斬波がけだるげに手を挙げてそう言った。それはつまり、
「学校デートですね、ジンくん」
早苗が小声で俺に囁いた。
第3章学校編開幕です! そしてジャンル別月間4位に上がりました! 週間は1位! 日間は4位にまで落ちましたが……上が強すぎていたしかたなし。
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