第2章 第7話 一転攻勢
「あーしを呼び出すとか生意気なことすんじゃん」
放課後。俺は空き教室にアクアを呼び出していた。
「1人で来いって言ったよな?」
「なんであんたなんかの言うこと聞かなきゃいけないわけ?」
アクアの隣。そして背後には十数人の生徒がいた。いや、生徒だけじゃない。俺の担任もいるし、戸川だってまるで側近のように控えている。
「つーわけで。場所移すよ。隣の教室空いてるから」
「……ここでいいだろ」
「だから。なんであんたなんかの言うこと聞かなきゃいけないんだって。さっさと来いよ」
これだけの人数差では聞かざるを得ない。斬波にお願いして車椅子を押してもらう。
「あんたのことだから。つーかあーしならスマホとか仕掛けるからさ。残念だったね、ばーか」
「…………」
隣の空き教室に俺たちを押し込んだアクアは勝ち誇ったように笑う。本当に無駄なところは頭が回る。
「で、何の用? あーしとあんたはもう無関係。話しかけてほしくないんだけど」
用があるのは俺の示談金だけ、ってことか。言うことが一々クズで助かるよ。本当にむかつく……が。
「……頼む。俺にその金を分けてくれ」
俺は車椅子から降り、床に膝をついて頭を下げていた。ようするに、土下座。それを見てアクアが本当に楽しそうに笑う。
「ははっ! なんそれ! そんなに金がほしいわけ?」
「ああ……。園咲家に金を返したいんだ。少しでも。だから頼む……いや頼みます。お金をください……!」
俺の土下座を見て笑っているのはアクアだけではない。戸川や担任、去年の担任。クラスメイトや元クラスメイト、何の関係もないのに絡んできた奴ら。誰もが俺を嘲り笑っている。
「あんたプライドとかないわけ? や、あるから土下座までして金返そうとしてるのか。にしてもあんた馬鹿だよねぇ。金持ちの家に預かってもらったんだから好きなだけ食いつぶせばいいのに。そんな生き方しかできないから今お前は! そんな惨めな姿になってんだよ。みんな、やっちゃっていいよ」
顔は見えないが、アクアの何らかの指示を出す声が聞こえた。そして近づいてくる足音。
「おらぁっ!」
そして俺の頭が戸川の声と共に踏み潰された。
「よくも俺様に土下座なんかさせやがったなぁっ! ゴミクズ野郎がぁっ!」
「っ、っ、っ!」
何度も何度も踏まれ、蹴られ、虐げられる。
「俺の教師人生が終わりそうになったんだわかってるか!? お前みたいなゴミ生徒のせいで! ほら、返事はちゃんとしろっ!」
「っ――!」
罵声、暴力、暴虐。虐めは止まるところを知らない。
「わかる? あんたみないなゴミが兄貴ってだけであーしがどれだけ迷惑を被ったか。死ね! 死ね! 死んで詫びろ、ゴミクズザコ人間っ!」
あぁ……痛い。痛くて痛くてたまらない。泣いてしまいそうだ。
「ウケる~ねぇ動画撮っていいよね~? もう撮ってるんだけど~」
「確かにそうですねー。ていうかもっと人呼んじゃいましょうよー。そっちの方が絶対楽しいですもんっ」
「ふふっ! ご安心くださいっ! 既にたっくさんたっくさん呼んでますよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「うるさ……。つーか動画撮ってるならさ、もっと楽しいことしようよ。ねぇメイドさん」
女子生徒たちの言葉を聞いたアクアの標的が。俺の後ろの斬波に移ったのを感じた。
「おい斬波は関係がっ!?」
「うっせーザコ。おい、その女好きにしていいよ」
「いや……やめて……きゃぁぁぁぁっ」
はぁ……やっぱりこうなったか。
「はははっ。あんたさー、やっぱ馬鹿だわ! 蹴られて女取られて動画撮られて。あんた何したかったわけ? あーしがあんたなんかに金渡すわけないじゃん! てめぇの価値はあーしらに金を渡すことしかないんだよ、ばーかっ!」
「何がしたかったか……だったな。つまりこういうことだよ。斬波っ!」
「りょ!」
少し遠くから斬波の声が聞こえ、その数秒後には。俺を押し潰していた全てが俺から払い落とされていた。
「悪いな、斬波。女性に最低なことやらせた」
「仕事だったらセクハラだけどさ、プライベートなんだから。友だちのためにこれくらいはさせてよ」
戸川たちを軽くなぎ倒した斬波が俺を抱きかかえ、車椅子に座らせてくれる。辺りを見渡すとほとんどの男が倒れていた。すごいなこいつ。さすがは早苗の付き人だ。
「な……何のつもり!? このあーしに逆らいやがって……!」
「何のつもりかって訊かれたらねぇ。もう全部終わったよ。私の同僚のおかげで」
「はぁっ!?」
斬波が乱れたメイド服を直していると、教室の至る方向から動画を撮っていた3人の女子生徒がスマートフォンをしまった。
「ばっちり撮れてたよ~」
「えーと、32人……ですかね? もっと増やしたかったんですけどー」
「教室の大きさ的に仕方ありませんっ! ですがこれだけいれば充分でしょうっ!」
「あんたら……何言ってるわけ……?」
アクアは何を言われているかわからないだろう。なんせアクアは1年生。俺を虐めていた2、3年生の顔なんてほとんどわからないはずだ。だから呼んだんだ年齢の近い奴らを。
「そいつらな、園咲家のメイドなんだよ」
グレースさんのメイド、侑さん。玲さんのメイド、瑠奈さん。愛菜さんのメイド、熱海さん。この3人は待合室でアクアに会っていない。だから呼んだんだ。わざわざ制服まで用意してもらって、このために。
「もう示談金なんていらねぇよ。虐めの証拠なんてどうせ確保できないからな。だから新しく虐められて、証拠を集めることにした。虐めだけならいいけど……女性を襲うのはなぁ。未遂とはいえ高くつくぞ」
「おま……お前ぇ……!」
「人は群れると善悪の区別が曖昧になる。相手が土下座するような弱い奴となったら強気になるのも当然だ。アクアが群れることは朝教室に来たことで知ってたからな。利用させてもらった。お前らの馬鹿さを」
中途半端な結末はいらない。やるなら徹底的に。潰してやる。
「もう謝っても遅いぞ。今撮った映像を斬波の顔にモザイクをかけてSNSってやつに流してやる。これでお前ら。そしてこの学校も。これで終わりだ」
復讐編第1話です! 明日あと2話やって第2章は終了になります。それとアクアちゃんたちの人生も終了です。
今日ちょっといやかなり伸びが悪いので、ぜひぜひ! おもしろかった、スカッとした、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価していってください! ブクマといいねもよろしくお願いしますっ!!!!!