表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/164

第2章 第5話 真の悪

「よ、よく来てくれたね、須藤くん……」



 翌日朝。登校した俺に声をかけてきた先生に連れてこられ、俺は校長室に来ていた。



「いやー……すまない。今まで虐めに気づけなくて……」



 俺の対面に座る校長が額についた汗を拭いながら謝る。嘘をつくならもっとどうどうとついてもらいたいものだ。



「それで。いじめに対する調査とかはするんですか?」

「も、もちろん! だから大事には……」


「それは結果次第ではないでしょうか」

「そ、そうだね……ところで後ろの方は……?」



 校長が少しいやらしい視線を、俺の後ろで静かに佇むメイド服姿の斬波に向けた。



「園咲家の使用人を務めています、武藤斬波と申します。本日からしばらくの間、須藤の介護人として付き添わせていただきます」

「い、いや……部外者は……」


「昨日盗難に遭った松葉杖。ものの1時間で破損が見られました。このような環境で盗難の恐れがある松葉杖を使用できるほど貴校のことを信用できません。また車椅子の場合ですが、貴校はバリアフリー設備が整っておらず、教室に行くことも困難です。それを踏まえた上で何か問題がございますか?」

「い……いえ……」



 本当ならこの役目は早苗が申し出ていたものだ。だが昨日学校をサボったことで怒られてたし、何より危険すぎる。俺ではもしもの時守りきれないと判断し、斬波に頼むことにした。まぁ斬波にも学校をサボらせてはいるのだが……。



「それで。なにか進展はありましたか?」

「昨日電話でお伝えしたように担任教師と戸川くんには何かしらの処分を……」



 電話、か……。クソ、学校ですらかよ……。



 昨日園咲家の弁護士さんの元に届いた電話は6本。どう考えても俺を虐めていた人の数より少なすぎる。他クラスや学年にまでは名刺が行き渡っていないのはもちろんだが、にしたって少ない。



 だからおそらく、ほとんどの奴は俺の実家に電話したか、実際に赴いた。



 問題は俺のこの微妙な立ち位置だ。俺は須藤の人間であって、そうではない。だがそれを知っているのは当人たちだけだ。実家にかけても不思議じゃない。



 そうなると起こる問題。あいつらならたとえ身に覚えがなくても金が手に入るなら毟りとる。その場合罪には問えないし、新たに示談金をもらうのは難しいだろう。やはり早苗の策は失敗だったか。



 まぁ昨日朝の時点でそんなことはわかっていたから多少は割り切っていたが、にしても学校までなんて……。しかもこの問題、園咲家が俺を許可なく預かっている形になっているから強く出られないのがきつい。



 クソ……現状実家だけが得してる状態だ……! 何なら想像しうる最悪の状態。早く何とかしないと……!



「とりあえずわかりました。早急に虐めの調査をお願いします」



 情報を手に入れた俺は、斬波に頼んで校長室を後にする。そして教室へと移動させてもらうことにした!



「状況は芳しくないようですね」

「ああ……正直金にはそんなに興味ないけど、最低限弁護士費用くらいはもらいたかったんだけどな……実家に金が入るのはどうしようもなさそうだ」


「そこは気にしなくてもいいですよ」

「そういうわけにもいかないだろ……俺ただの金食い虫だぞ」


「むしろ逆です……寺門のこと忘れたの? あいつの部下が早苗を誘拐しようとして、ジンに怪我を負わせた。脚に一生麻痺が残るような大怪我。武藤家……ひいては園咲家の失態。そのお詫びはまだできてないでしょ」

「それこそ俺をあのクソ家から助け出してくれた分で余裕でチャラだよ」



 そんな互いに気を遣うような会話をし、車椅子は教室に入る。その瞬間、



「須藤! 今まで悪かった!」



 戸川が床に這いつくばり土下座をしてきた。



「今までのことは謝るから親父の会社での立ち位置は……」

「その件は弁護士に連絡しろって話しただろ」


「だって弁護士なんて……親父にもこんな話できねぇし……」

「親に言ってないのかよ……」



 呆れた。この期に及んで謝罪で話が終わると思ってるのか。甘ちゃんというか世間知らずというか……。



「……戸川。俺の実家にも行ってないんだよな」

「い……行ってない……。行った方が……」


「絶対に行くな。その代わりに俺を虐めた奴に弁護士の名刺渡してこい。斬波、頼む」

「かしこまりました」



 斬波がスカートのポケットから大量の名刺ケースを取りだし、それを戸川に渡した。



「実家に行かずに必ずここに電話しろ。素直に謝るなら悪いようにはしない。それを伝えてくれ」

「わ、わかった!」



 戸川が走って教室を出ていくのを見送ると、斬波がため息をつく。



「よろしいのですか? 悪いようにはしないなんて言って」

「いいんだよ。俺に恩ができれば逆らえなくなる。この学校は俺の実家に近いからな。味方が増えればその分あのクソ家族も動きづらく……」

「へぇ。あんたも小狡いこと考えられるんだ」



 耳元で声がし、ぞわっと全身の毛が逆立った。



「アクア……!」

「あんたさ、いつもあーしらをクズだって内心馬鹿にしてたっしょ。そんなあんたがねー……言っとくけどあーしらと同類だから」



 どうして2年の教室に1年のアクアが……。いや問題は。取り巻きが多すぎるということだ。



「そろそろホームルームだ……」

「はいはいみなさんご注目!」



 俺の言葉を遮り、アクアがパンパンと手を叩きクラス中の視線を集める。そしてとんでもないことを口走った。



「今なら。示談金10万で手を打っちゃうよ?」



 示談金……10万……? 虐めが明らかになったらそれだけの損失じゃ済まないぞ……おそらく停学になるだろうし、進学にも影響が出るだろう。だから本来もっと搾り取れるはず……。金の亡者がこの認識を誤るなんて……いや、違う!



「10万で虐めがなかったことに! どう? 安いと思わない?」



 アクアの目的がわかった。それは、本来払う必要のない人間からも搾り取ること。虐めの証明は難しい。明らかに俺のことを虐めてた奴は2、3年だけでも100人はいるだろうが、悪質なのは4分の1もいないだろう。



 だが自主申告制なら、その限りではない。被害届を出されるかもしれないという恐怖に怯えるくらいならさっさと和解した方がいいに決まっている。



 そしてまた金額が絶妙だ。10万なら俺が軽く毎月稼げる金額。決して安くはないが、虐めがなくなるのなら高くはない。



 俺がやっていたらせいぜい特にひどい十数人に数十万万……500万行けばかなりいい方だろう。いや、証明が難しい以上もっと下がるはずだ。もっと時間をかけて証拠を集めていれば話も変わったが、早苗の行動によって最悪戸川と担任……そして学校からもらえるかどうかってところか。



 だがアクアのやり方なら。100人に10万なら、1000万。それに加え、安く済ませてもらったことによる恩。それを踏まえればどれだけのメリットがあるか。それは卑しいこいつらにはよくわかっていることだろう。



「待て! こいつに借りを作れば骨の髄までしゃぶりつくされるぞ!」

「まぁ多少の恩は返してもらうかもしれないけどさ。人数が多ければ多いほど、その心配はなくなるんじゃない?」

「っ……!」



 俺は。こいつらには詐欺のような頭を使った悪行はできないと思っていたし、実際その通りだと思う。自分が捕まらないことを前提とした複雑な計画を立てるなんてこいつらには不可能だ。



 だが。こういう話術だけで金を稼ぐとなるとこうも強い。舐めていたわけではないが、えぐすぎる。戸川や担任なんかでは相手にならないほどの、絶対悪。



 こんな恥も外聞も良心も平気で捨てられるような奴に。俺はどうやって勝てばいいんだ。

総合評価9000pt突破! あと少しで10000ポイントです! というところで溜め回です。おそらく明日で第2章完結予定なのでお待ちください! あ、1日2話更新できればですが。こんな日に限ってストックないです。


そして依然ジャンル別日間2位、週間1位、月間5位です! 応援ありがとうございます!!!


引き続きおもしろい、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークといいねのご協力をよろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 実際須藤家問題は児童福祉事務所絡めれば、 簡単に解決だぞ?明らかに仁と須藤家の親は 仁に対してネグレクトをしておりその関係で、 立件されたら名前等で罪は確定だし 体に付いた傷跡から暴行罪は確…
[一言] 1話で主人公を譲って下さいって話して契約しているんだから、主人公と養子縁組とか、してないのですか? 普通にあんな糞親なら更にお金を強請にくると思って親権放棄に養子縁組くらいすると思うんですが…
[一言] やるとしたら両親の今までの育児放棄、虐待を家裁に訴えて親権を放棄させ、戸籍も完全に分けて養子になり、妹が示談金と称して学校の生徒を恐喝してるとして詐欺と一緒に訴えることかな? ある程度泳がせ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ