第2章 第2話 反抗
親と子のつながりは深い。これは絆的なものではなく、法的な話だ。
唯一縁を切るには特別養子縁組が必要だが、これは年齢的に高2の俺はアウト。未成年者は籍を抜くことはできないし、普通養子縁組も未成年の場合は家庭裁判所の審査が必要。これは色々と悪どいことをしているうちの家族的には絶対にしてほしくないものだ。
それら諸々の事情を不問にするための材料が、クソ親に譲った土地。これは後から聞いた話だが、クソ両親が後々難癖つけてくるようなら容赦なく悪行を晒すことを約束したらしい。
が、これは当事者同士の話。警察から家族に連絡をするとなると、当然実親に連絡がいってしまう。だから来たんだ。俺の、妹が。
「一応義理で来てやったけど、もうあーしいらないよね。じゃあ帰るから。もう二度と顔見せないでね、ばいばーい」
それだけ言うと本当に待合室から出ていってしまったアクア。まぁそっちの方が助かる。俺だってもう二度と元家族の顔など見たくないのだから。
「先程の方は?」
「……俺の、妹。元な」
「まぁ! では挨拶しないと!」
「いいよ別に。お互いもう……」
ルンルン気分の早苗に説明していると、再び扉が開きアクアがやってきた。それを見た早苗はとてとてとアクアに近づき、頭を下げる。
「はじめまして。ジンの妻の早苗と言います。今後とも末永いお付き合いを……」
「は? 妻とかキッモ。冗談でしょ? てかそれよりおっさん。あんた金持ちなんでしょ? ちょっとお小遣いちょうだいよ。ほら、なんだっけ? 大切な子ども(笑)の妹なんだからさ」
あまりにも。あまりにも失礼な物言いに。俺たち家族の時間が止まる。そんな中真っ先に動いたのはグレースさんだった。
「しょーがないなー。かわいい義弟の妹さんだし、お姉さんが恵んであげよう。ほら」
そう言ってグレースさんは1円玉を、アクアの足もとに投げ捨てた。
「……なんのつもり?」
「初対面の相手に金をせびるくらい困ってるんでしょ? ありがたく拾いなよ」
「てめぇ……舐めてんの?」
「ぜんぜん。1円だって大切なお金だよ。本当ならあなたみたいな乞食に渡すなんて絶対にいや。でもジンくんの妹って点を踏まえて最大限努力したのがそれなわけ。お姉さんに感謝してもいいからね」
「お前さぁ……!」
アクアが1円玉を蹴り、グレースさんへと歩み寄ってくる。
「さっすがジンの血縁者。むかつくのは一緒みたいね」
そんな2人の間に入ったのは愛菜さん。脚がわずかに震えていながらも、キッ、とアクアを睨みつけている。
「でもあんたみたいなゴミに比べたらあっちのゴミの方が億倍マシ。さっさとどっかに消えて」
「うっせぇなぁっ!」
「警察署で暴力を振るう方がいるとは思いませんでした」
何の躊躇もなく拳を振りかぶったアクアの隣でそう発言したのは杏子さん。
「おねーちゃん嫌いー!」
「か……帰ってください……っ」
来海ちゃんも、玲さんも。アクアからは距離を取りながらも、怒ってくれている。俺なんかのために。だったら俺も、黙っているわけにはいかない。
「アクア。ここはお前がいていい場所じゃない。俺とお前はもう、何の関係もないんだ」
松葉杖をつき、一番近い愛菜さんの前に立つ。正直足が竦む。こいつは……こいつらは。普通の人間じゃない。恐喝や暴力。それを何の躊躇いもなくできる人間だ。まともな交渉ができる相手じゃない。だから俺は……。
「はっ。ずいぶん言うようになったじゃない。いつも部屋の片隅でビクビク震えていたような奴が」
そう。俺は基本的に両親にも兄妹にも、反抗しなかった。怖かったからだ。多少の文句くらいは言うが、決定的に逆らうことはしなかった。でも今、俺は。それで終わるわけにはいかないんだ。
「今の俺には守らなきゃいけない人がいる。だからお前らみたいな奴に屈するわけにはいかないんだよ」
「それは。私の役目ですよ」
言いながらも震えが止まらない俺の隣に早苗が並ぶ。
「ジンくんの幸せを奪おうとする方は私が許しません。言っておきますが、私はあなたと同類ですよ? どんな手でも使えます。本当に、どんな手でも」
そう言ってもらった瞬間、震えが止まった。
「まぁまぁ落ち着きまショウ。パーティーはできませんでシタが、ご馳走は残っていマス。家族みんなで食べマスよ」
「そういうことだ。お互い帰る場所に帰ろう」
お義母さんとお義父さんが俺と早苗の肩を抱き、待合室から出るよう促す。その時だった。
「塵芥、覚えておけよ。あーしらに反抗したらどうなるか。もう一度教えてやらないとね」
捨てたはずの名前が、呼び起こされた。
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