第2章 第1話 再会
「ジンくんっ!」
「早苗!」
俺と早苗が再び抱き合えたのは、翌17時。最後に会ってから24時間後だった。
「ごめんな、いきなり一緒にいられなくなって」
「こればかりは仕方ないです。地獄より警察の方が強いですから」
俺たちが誘拐され、犯人を刺した後。駆けつけた園咲家により、警察と救急車が呼ばれた。
そして伝えたのは園咲家にとって都合のいい虚偽ではなく、真実。俺が事実上園咲家の養子になっていること以外はほとんどそのまま警察に話した。
友だちの家にいたところ、誘拐。たまたま持っていたナイフによりやむを得ず反撃。多少こちらに都合のいいようには伝えてるが、まぁそれくらいは許してほしい。俺は早苗から離れるわけにはいかない……いや、もう離れたくないんだ。
「で、早苗……いや、なんでもない……」
寺門は事前に家の監視カメラの電源を全て落としており、むしろ自分たちは被害者だと警察に訴えていたのだそう。だが決め手となったのは、俺の部屋に仕掛けられた監視カメラの映像。そこに俺たちを誘拐する寺門たちの映像がばっちり残っていた。
これを進言したのは斬波。その監視カメラは園咲家が管理していたものではなく、俺が寝ていた間に早苗が斬波に頼んで仕掛けておいたもの。つまり早苗が俺を観察するため……なのだが。これについてとやかく言うのはよそう。
「寺門さんには悪いことをしました……」
「寺門が悪いことをしました、だ。君が気に病むことじゃないよ」
そして結果的に、俺と早苗さんは無罪放免。まだ判決は出ていないが俺や早苗の刺突が罪に問われることはなさそうだ。実際に悪事を働いたのは寺門だし、俺を守るために動いた早苗の将来に傷がつくことにならなくてよかった。
「そうですね……とにかく。ジンくんとまた会えてよかったです」
「ああ……そうだな。でも今回ばかりは……俺の方が会いたかった……絶対に」
「ふふ。ジンくん顔真っ赤ですよ?」
「うるさい……」
警察署の待合室で抱き合いながら話をしていると、お迎えがやってきた。
「早苗っ!」
部屋に入るなり走って俺たちに抱きついたのは、斬波。その瞳は朱に染まっており、彼女が早苗をどれだけ心配していたかが窺える。
「色々言いたいこともあるけど……無事でよかった」
「斬波……ご心配をおかけして申し訳ありません」
「ジンも……私の代わりに早苗を守ってくれてありがとう」
「いや……守ってもらったのは俺の方だよ」
斬波の瞳から涙が零れそうになった時、待合室に早苗の両親が入ってきた。
「早苗……!」
「ママ! パパ!」
早苗が斬波に一度頭を下げ、2人に抱きつく。俺もあんな関係になれるだろうか。親に抱きつくなんてことはできないししたくもないが、子どもに抱きついてもらえるような父親に。
「ジンくん、無事でよかった」
「何か怖いことされませんデシタか?」
遠い未来に思いを馳せていると、早苗の両親の腕が、関係のないはずの俺にも伸びていた。
「その……もっと早苗と……」
「君の無事も確認しないといけないだろう」
「あなただってもう、ワタシたちの大切な子どもなんデスよ?」
あぁ……なんか……最近涙脆くなってきたな……。
「ありがとうございます……お義母さん、お義父さん……」
俺の腕もまた、求めるように2人へと伸びていく。そんな中、後ろから脚に誰かが抱きついてきた。
「おにいちゃん! ひさしぶり!」
「来海ちゃん!」
きっと俺たちの事情を聞かされていないのだろう。小学3年生の来海ちゃんは1日ぶりに会えたことに単純に喜んでいた。
「お義兄さん」
だっこでもしてあげようかとしゃがむと、小学6年生の杏子さんが俺に耳打ちしてくる。
「申し訳ありません。寺門さんが怪しいと思っていて証拠集めをしていたのですが間に合いませんでした。それに元はと言えば私がもっと上手く立ち回れていればこのような事態に発展することは防げたはず。なんとお詫びしていいかわかりません」
こいつ……どこまで考えが及んでんだよ……。こんだけ優秀だったらそりゃ推したくなるわな。でもまぁ、
「結果的には俺の勝ちってことだな」
「小学生に張り合って楽しい? あんたも案外子どもね」
中学2年生の愛菜さんが腕を組んで呆れたようにため息をつく。こればっかりはツンデレではなく事実だ。
「楽しいな。優秀な奴にマウント取れると脳汁が溢れてくる」
「なんだか……前と雰囲気変わりましたね……」
言っていいのか迷いながらもそう発したのは、高校1年生玲さん。そしてその後ろから大学2年生のグレースさんが姿を見せた。
「男子三日会わざれば、ってやつかな? 一日だけど」
「そんなんじゃないですよ」
俺が自分でもわかるくらいテンションが上がっている理由。そんなのそのままだ。
「俺、今幸せなんです。ずっとほしかったものが手に入って。だから……」
「はぁ? せっかくあーしが迎えに来てやったってのに。なにこのクソ茶番は」
待合室の入口でスマホ片手にダルそうにする金髪女が突然会話に入り込んできた。きっと俺以外の人間はいきなり割り込んできた謎の女に疑問を抱いていることだろう。もっとも別の意味で、俺も疑問に感じてはいるが。
「アクア……」
高校1年生、須藤悪亜。あのクソ両親の血を間違いなく引いている性悪のゴミ人間。俺の妹が、捨てたはずの俺の元に再び現れた。




