第11章 第10話 箸休め
〇ジン
「……それで、早苗様はなんと?」
「ああ、どうしても帰ってきてほしいって」
「それは大変です! 今すぐに帰りましょう!」
「だから! 帰れないんだってぇぇぇぇっ!」
夜の繁華街。俺と未来さんは完全に途方に暮れていた。
「どうするんですか!? 帰れないじゃないですか!」
「お前のせいだろ!? 未来はトラに騙されて有り金とスマホ盗まれて、俺はスマホ電源切れで所持金1万円! 帰れないじゃないか!」
「タクシーは!? 何か手はあるでしょう!」
「1万円じゃ帰れないって言われただろ!? 電話番号だって覚えてない! 歩くのも俺は無理だ!」
「うぅ……私のせいですかぁ……!?」
「いや騙されたから悪くはないんだけど……」
本気で凹まれては責めるに責めれない。仕方ない。やはりあの手しかないようだ。
「ホテルに泊まろう」
「絶対嫌ですっ!」
未来が怒鳴るのも無理はない。2人で1万円以内で宿泊するとなるとあのホテルしかないからだ。
「大丈夫だって。何もしないから」
「そういう話ではないでしょう!?」
「あぁそういう意味じゃないよ。俺は外のそこら辺で寝てるから」
「それこそ駄目ですっ!」
ということで、致し方ない。
「ま、まぁ私たち未成年ですし? きっと追い返されるでしょうが……」
それから5分後。
「普通に入れました……」
未来ががっくりとベッドに倒れ込んだ。まぁ俺も当然入るのなんて初めてだからおっかなびっくりだが。
「改めて言うけど本当に何もしないからな。とりあえずシャワー入ってきたら?」
「はい……そうします……。なんか透け透けなんですけど!?」
「覗かねぇよ……」
「そ、そうでしょうが……うぅ……」
未来にも思うところはあるのだろうが、ここまで警戒されるとさすがに少し不機嫌になる。まぁそれで喧嘩しても仕方ないので未来を脱衣所に押し込み、軽く部屋を見てみることにした。単純に好奇心があったからだ。
普通のホテルすら泊まったことないから色々新鮮だ。色んなものがあるんだなぁ……。持ち帰ってもいいものだろうか。あぁ駄目だ駄目だ。こういうとこから常識ないって言われるからなぁ……。下手なことはしない方がいい。
「あ、上がりました……」
しばらく部屋を見ていると、未来が戻ってきた。ミニスカナース服を着て。
「じゃあ次俺入っていい?」
「何かコメントしないんですか!?」
コメント……コメントなぁ……。
「別に興味ないからそんなスカート抑えなくていいよ」
「本当に失礼ですねっ! 言い訳させてください! 着替えしないのも嫌なので置いてあったコスプレ衣装を着ただけですっ!」
「いやそれは見ればわかるし……」
「ぅぅ……もういやですぅぅぅぅ……」
めそめそしている未来の横を通り、風呂場に入る。そして簡単にシャワーを浴びて戻ると。
「……何やってんの?」
未来がベッドの上で正座していた。真っ赤な顔で。
「わ……私だって覚悟しています……。こんなところに入った以上、そういうことをするのは致し方ないかと……」
「いやしないって……」
「こ、こんな状況で手を出さないのは失礼だと聞いた覚えがあります! 私に恥をかかせないでくださいっ!」
「そうなの? そんなことないと思うけど……」
「こ、こうなったら私から……!」
「ちょっ、落ち着けって……!」
どれだけ真面目なのか。ベッドに押し倒そうとする未来から何とか抵抗していると、窓の外から音がした。まるで石が投げられたような音だ。
「な、なんでしょうか……」
「とりあえず見てみるか」
落ち着いた未来と共に窓を開けて外を見てみると。
「私や早苗が悩んでるのに! なに気持ちいいことしてんのーーーーーーーー!?」
般若のような顔をした斬波の姿が街灯に照らされていた。