第11章 第8話 ポンコツたち
〇ジン
「もしもし、ジン? 私もそっち行っていい?」
斬波から電話がかかってきたのは未来さん、トラリアルと一緒に夜の街の捜索を行っていた時だった。
「いいけど……早苗は?」
「見捨ててきた」
短くそう告げられ言い返そうと思ったが、斬波の声に迷いはない。考え抜いて努力の末に出した結論なのだろう。だとしたら俺が何か言う権利はない。
「わかった。でも今家にいるの杏子だけなんだよね。俺たちも未来さんがうるさいから23時には帰るけど」
「そっか。まぁでもいいよ待ってるね。いっぱい話したいこともあるし」
それから二言三言話し、電話を切る。これで早苗は一人か……。まぁ斬波を信じよう。それでも早苗が前を向けないなら、別の方法を考えるだけだ。
「おまたせ」
「いえ、問題ありません」
未来さんのもとに戻り、行儀よく立っている未来さんの後ろの手すりに腰をかける。
「斬波さんはなんと?」
「ああ、こっち来るって。早苗は置いてな」
「なっ……! 早苗様を一人にさせたんですか!?」
「たまにはそういう時も必要だろ。生まれてからずっと斬波と一緒にいたんだ。たまには一人の環境ってのも悪くないと思う」
「ですが……早苗様は……」
「大丈夫だよ。困ったら誰かに助けを求めればいいんだ。俺や早苗や未来さんじゃなくても、家族とかな」
それが俺との違いだ。何が起きても家族さえいれば……家族?
「なぁ未来さん……トラリアルは?」
「はい。エターナル様がそこのパチンコ店にいるかもしれないとおっしゃったので探してもらっています。それにすごいんですよ? お金貸してくれたら倍にできるとおっしゃっていました。なので私も5万円渡して……」
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「え!? え!?」
そうだそういえばこの子意外とポンコツだった……! ポンコツというか、真面目すぎる。
「それで一人にさせたら逃げるに決まってるだろ!?」
「で、ですが出入口はここしか……」
「ないわけないだろ!? 裏口とか絶対あるって!」
「だ、大丈夫ですよ……。そんな一か八かで逃走なんて……」
「一か八かならあいつはやるんだよ賭け事大好きだからっ! とりあえず中入るぞ!」
「駄目です! 我々は未成年ですよ?」
「そんな馬鹿みたいに胸見せたドレス着てんだから子どもには見えないって!」
「セクハラですっ! それにこれはジン様が着ろって言ったんでしょうっ!?」
「メイド服以外の服にしろって言ったんだよ常識ないなぁっ!」
「常識!? あなたが言いますかっ!?」
ここで言い合っていても仕方ない……! それにこういうこともあろうかと、杏子が取り付けてくれた秘密兵器があるんだ……!
「じーぴーえす! これをあいつのカバンの底に仕掛けた! これさえあればトラの位置は丸わかりってわけだ!」
「おお、さすがです! それで、そのじーぴーえすというものはどうやって使うんですか?」
「いや……機械は俺の領分じゃないっていうか……」
「私だって機械はわかりませんよ!?」
「なんでわかんないんだよ田舎者っ!」
「田舎者だからです! 待ってくださいね、我が家系にのみ伝わる捜索のまじないがあるんです。むむむ……! 遠いです! トラリアル様は遠くにいます!」
「この! ポンコツがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「あなたに言われたくないです!」
こうして俺たちは。いともたやすくトラリアルを見失ってしまった。