第11章 第5話 変身
〇斬波
「エターナルに逃げられた!?」
急遽開かれたメイド会議で聞かされたのはジンの失敗を告げる報告だった。
「うん……。職場からも家からもいなくなってたんだって。たぶん玲が急に返信とかしなくなったから感づかれたんだと思う。……ごめん、ルナのミス」
瑠奈が申し訳なさそうに頭を下げる。玲の問題が大変でそこまで頭が回っていなかったのだろう。私も似たような立場だからよくわかる。
「たぶんエタ兄のことだから別の女の家にいるんだと思う。あれはあれだからヒモできるだろうし……本気で隠れられたら絶対に見つけられない。トラ姉ほどじゃないけどギャンブルも好きだから競馬場とか張ってたら見つけられるかもだけど……」
近頃使用人として認められるようになり、メイド会議にも参加するようになったアクアが本気で考えこんでいるのか、つぶやくように言う。エターナルが見つけられないということはつまり。
「ジンが……帰ってこれない……」
「ごめん、一瞬お邪魔する」
私の言葉を遮るように部屋の扉が開き。
「ジン!?」
問題が片付くまで帰ってこないと宣言していたジンと、未来が入ってきた。
「なんで……まさか見つかった……!?」
「いやそれはまだだ」
「でも……帰ってくるのは全部問題を解決した時だって……!」
「それにこだわって失敗するくらいなら約束なんて破るよ。そっちの方が効率的だ」
……ジンは変わった。前はもっと、頑固だった。自分の意見を曲げることはあったが、その時はもっと深刻そうに。悩みながら口にするタイプだった。
でも今のジンの表情には何の迷いも感じられない。良い意味で、柔軟になった。私がいないところで。
「瑠奈さん、武藤家の人間を何人か貸してもらえますか。次期当主候補のあなたならできるはずです」
「それとアクア。お前もこっち来い。お前の力が必要だ」
……あれだけ嫌っていた。少なくとも言葉では明確に拒否していたアクアにも素直に協力を仰いでいる。冷静に、普通に。
「……塵芥。あんたちょっと馬鹿になったんじゃないの」
「なんで最近勉強サボってるの知ってんだよ……」
「ほんと……そういうとこ」
アクアが笑う。珍しく、本当にうれしそうに。
「動いてもらうのは夜だけでいい。どうせあいつ昼は寝てるだろうし」
「それとやっぱりギャンブル関係。パチンコとかは無理だろうけどここら辺の競馬場とか競艇とか見張らせたいかな」
「それでいうとトラリアルに訊いてみるか。1万円あげるって言ったらあいつは兄妹でも売るだろ。イフリートも仲良かったよな」
「イフ兄はやめといた方がいいかも。無駄に悪知恵働くから弱み与えたくない」
本当に何もない。ただの兄妹のように会話して兄妹の名前を出すジンに私は。
「ジン……助けて」
土下座していた。
「がんばったけど……私じゃ無理なの。私じゃ早苗は救えない……。でも今のジンなら絶対にできるから……お願い。早苗を助けてあげて……!」
今のジンなら。変わったジンなら私のお願いを聞いてくれると思った。変わる前のジンでも、土下座まですれば必ず私の言葉に耳を傾けてくれるはず。全部計算の上の土下座。それにジンは。
「がんばっても上手くいかないのなら努力の仕方が違うのかもな。押して駄目なら引いてみるとか、そういったことしてみたら?」
アドバイスを、くれた。
「……本当に、変わったね」
「そりゃ変わるだろ。環境が変わったんだから」
「そっか……そうだよね」
今の今まで忘れていた。ジンの信念を。環境が変われば人は変わる。そして何よりも、努力が大事だと。
「ごめん……甘えてた。もっとがんばってみるね」
「うん。がんばれ」
そうだ。いつまでもジンの影を見るな。ジンから学び、私が伝えるんだ。
だって私だって、ジンにも負けないくらい早苗のことが好きなんだから。負けたままなんて、悔しいからね。