第11章 第3話 姉妹しない
〇斬波
「……おねえちゃん。今少しいいかな」
早苗が勉強を続けていると、部屋に玲が入ってきた。そして隣にはそのメイドの瑠奈もいる。
「玲ですか。安心してください。私はもう、塵芥くんなんてどうでもいいですから」
「……そのこと、なんだけど」
玲が座ったままの早苗の隣に立つ。そして言った。
「おねえちゃん、れいのこと馬鹿にしてるの?」
とても強い、敵意のこもった言葉を。
「な、何を言ってるのですか……? 私は玲のことを馬鹿になんて……! ただ玲の幸せのことを考えて……!」
「それが馬鹿にしてるって言ってるの……! れいはジンさんのことが好き……! でもおねえちゃんに譲られたいんじゃない。おねえちゃんから奪いたかったの……!」
「それは……同じことでは……?」
「違う……! れいが、悪いんだよ。おねえちゃんから大事な人を奪おうとした、れいが悪い。それなのに譲られたら……れいは罪を償えない……! れいは罪を償わなきゃいけないんだと思う。ジンさんと付き合えても、付き合えなくても。悪いことは悪いってしなきゃ、いけないんだと思う」
早苗が困ったように私に視線を向け、すぐにそれを外す。きっと早苗には理解できない。玲がなぜ、涙を流しているのかを。悪人のフリをしているだけの善人には決して理解できないはずだ。瑠奈に支えてもらいながら、玲は続ける。
「れいはジンさんと付き合いたいわけじゃない。ジンさんに好きになってもらいたかったの……! だからおねえちゃんと戦いたかった……! おねえちゃんと同じように、1人の女性として見てもらいたかった……。でも今おねえちゃんがしているのは、れいを下に見ているのと同じ。下に見て、馬鹿にして、一方的に施しを与えてるのと同じだよ……! それだけ……言いたかった……」
言いたいことだけ言うと、玲と瑠奈は去っていく。
「ちゃんとれいのことも見てよ……家族でしょ……?」
やはりただ幸せを享受してきた早苗には理解できない言葉を残して。