第11章 第1話 他力本願
〇斬波
「…………」
「…………」
気まずい。ジンが別居し、未来までいなくなり。なんか押しつけられたように早苗のメイドに逆戻りした……のはいいのだけれど。どうしても、気まずい。
ジンが再びいなくなり、翌日の今日まで。早苗はずっと勉強しかしていない。しかも学校の勉強ではなく、経済学やら園咲家と親しい企業のことやらしか学んでいない。本当に次期当主になるつもりなのだろう。
「……早苗。おやつでも持ってくる?」
「必要ありません。邪魔です」
そしてこの反応。一応メイド服を着ているけれど、仕事してる感が全くない。私も宿題やろうかな……。
いやいや駄目だ。嫌なことから逃げていたら、ジンは帰ってこない。たぶん本当に、ジンは玲と結婚するつもりだ。早苗が本音を出さない限り。そんなの……私は認めない。
「早苗……いいの。このままだと本当にジンは玲と結婚しちゃうよ」
「だからそうするべきだと言っているでしょう。それでみんな幸せです」
「私は幸せじゃない! 早苗だって……ジンだって本当は……!」
「……はぁ。本当に面倒です」
早苗が鉛筆を置き、ふらふらとベッドに倒れ込んだ。
「本音を言いましょう。私はまだジンくんのことが好きです。ジンくんとずっと一緒にいたい。でも……ここまで迷惑をかけておいて、やっぱり今までの全部なし! だなんて言えると思いますか?」
「それを……みんな望んでるとしても?」
「玲が望んでいないでしょう。私は今まで充分いい思いをしてきました。次は玲が幸せになる番です」
「じゃあジンの幸せは!? ジンの幸せは無視してもいいの!?」
「……今は私のことが好きなのかもしれません。でも時間が経てば玲のことを好きになりますよ。ジンくんはそういう人です。別に私じゃなくたって……」
「……どうしちゃったの早苗。早苗はそんな子じゃないでしょ!? なんで……そんな……」
「私だって成長するんですよ。今まで私は好きなことをやって、自分だけが幸せになる。そんな人間でした。でも気づいたんです。私1人を幸せにする労力で、もっとたくさんの人を幸せにできるって。だからもう……私は……」
「違う……違う違う……そんな話をしてるんじゃない! どうしてわかってくれないの!?」
どこまでいっても平行線。私の声が早苗に届くことはない。
……ごめん、ジン。やっぱり私じゃ無理だよ。ジンならできるでしょ……早苗のことが好きだって。どうしても結婚したいって迫れば……絶対に早苗は納得する。それでいいのに……。玲には悪いけど……それが一番いい選択なのに……どうしてジンはやってくれないの……。
……わかってる。全部元通りにするには、私と早苗が仲直りしなくちゃいけないって。それが軽々しく関係を壊した私の責任だって。だからジンは私に託した……。でも辛いよ。本当に辛い。
「ジン……助けてよ……」
私も、早苗も。ジンがいないと何もできない。だからこそ私たちで何とかするしかないのに、どうしても前に進むことはできなかった。