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第10章 最終話 交代

「……今聞いてもらったのが、俺が家出した理由です」



 キャンプを終えた俺たちは仮住まいに戻ることなく、グレースさんが運転する車についていき、園咲家別邸へと向かった。



 そしてお義父さんとお義母さんに家出したことを謝罪し、勝手に家出したことを怒られ、今に至る。



「俺はどうしても許せなかった。こんな奴と家族になるくらいなら、この家を出た方がマシだと思った。誰にも相談も報告もなく家出したことは謝ります。でもどうしても、許せなかった」



 エターナルが油断してペラペラと話してくれた時の録音。食堂でそれを流した俺は、侑にお願いして元データをお義父さんお義母さんに送信する。



「でも私はそんな方でも。それが玲の幸せなら付き合うべきだと思いました。もちろん更生させた上でですが」



 俺の正面に座る早苗が言う。今座っている位置は普段の食事の時とは違う。義両親はもちろんとして、姉妹6人。そしてそのメイドたちと、アクアまで揃っている。



「……ひどいデスね。ワタシは玲がそんな人と結婚するなんて反対です」

「……僕も同じ意見だ。でも決めるのは……」



 義両親たちが視線を向けた先は俺でも早苗でもない。普段俺と早苗が座っている義両親たちの正面の席で、声を抑えることもせず泣き続けている玲さんだ。



「れ……れいは……わからない……。エターナルさんはすごい優しくしてくれて……すごい……かっこよくて……ジンさんみたいで……! でもそれが……演技で本当は……お金目当てだったなんて……そんなこと……ぅぅ……瑠奈ちゃぁぁぁぁん……!」



 玲さんが抱きつくように隣の瑠奈さんへともたれかかる。こうなることはわかっていた。わかっていたから俺は家を出たし、早苗は黙っておこうとした。でも結局、こうなってしまった。



「玲さん。俺は君の恋愛に反対だって言ってるわけじゃない……言いたいけど! でもそれは自由だし……アクアだってその……こんなこと言いたくないけど更生した……ように見えるから……エターナルだって、そうなるかもしれない。いや俺は全くそうは思わないけど……早苗がそう言うんだ。だから今すぐじゃなくていい。決めてほしい。エターナルと付き合うか、別れるか」

「れいは……ジンさんと付き合いたい……!」



 泣いていて自分でも何を言っているのかわからないのだろう。すごいタイミングで告白されたもんだ。でもそれは、



「それはアリです」



 やはり同じことを考えていた。早苗が口を開く。今にも泣き出しそうな表情で。



「それなら塵芥くんは家に帰ってこれますし、エターナルさんも追い出せます。……私も斬波と付き合ったままでいられますし。なので私は……それを応援します」

「早苗……私は……!」

「斬波は黙っていてください! あなたの意見は聞いていません!」



 早苗と斬波が言い争う。いや、争っているのは早苗だけか。俺も……伝えないとな。



「玲さん……正直に言うけど、俺は早苗が好きだ。早苗と結婚したいと思ってる」



 早苗と玲さんの顔が同時に歪む。とても、苦しそうに。



「でも早苗が俺と付き合いたくない以上、俺は早苗とは一緒にいられない。そして早苗の代わりに玲さんと付き合うってのは論外だ」



 そう。俺はもう結論を出した。きっとこれが本当に全員を幸せにする、正しい答え。いや、何が正しいかなんて俺にはわからない。ただ俺の家族に認めてもらえる答えが、これだ。



「それでも……どうしても早苗が俺を無理って言うのなら。俺は早苗を諦める。そして玲さんのことを女性として見ようと思う。付き合うなんて約束はできないけど、早苗の妹としてじゃない。俺と一生を共にする相手として玲さんを見る。それで問題あるか……早苗」



 早苗を見る。俯いている。震えている。テーブルに雫が垂れる。涙と汗。様々な感情がこもった雫が。



「わ……私は……! ジンくんとは……別れ……! ぅ……ぅぅ……!」

「……これで俺の話は終わりです。杏子、侑。戻ろう」



 椅子を引き、立ち上がる。それに遅れて杏子と侑。そして未来さんまでもが立ち上がった。



「……私も一緒に行かせてもらえないでしょうか」

「俺はいいけど……早苗のメイドは……」


「斬波さんがいるでしょう」

「いやそうじゃなくて……」



 俺が言いたいことをここで言うことはできない。お義父さんたちがいるから。でもそのお義父さんに、未来さんが自分から頭を下げた。



「ご当主様……申し訳ございません。私が早苗様の付き人になった理由は……私のためです。園咲家の祭事を担当している私の家が……もっと本家に近くなって……幸せになれるように……。そのためには早苗様に次期当主になっていただくことが一番だと思い……悩む早苗様に何も寄り添ってきませんでした。でも私の務めは早苗様を幸せにすることだから……しばらくお暇をちょうだいします。私の代わりは斬波が務めますので……ご容赦ください」



 従者からのその言葉にお義父さんは。



「君もまだ高校生だ。自分で考え、ジンの元でたくさん学んできなさい。こっちのことは気にしなくていいから」

「はい……ありがとうございます」



 これは完全に想像の外だったが、何にせよ。これで早苗と斬波が最も近い存在になった。



「ジン様……ですのでしばらくご厄介になります。お許しください」

「こっちは問題ないよ。でも夏休みの宿題以外勉強禁止な」

「器が大きいのか小さいのかどっちですか……」



 そんなの当然、小さいに決まっている。だから。



「玲さん、俺はエターナルを潰してくる。それでいいか?」

「……うん。れいは……れいのことが好きな人と恋愛、したいから」

「わかった。玲さんを傷つけた分の代償はしっかり払わせるから」



 これで本当にやるべきことは終わった。後は……。



「ジン……! 本当にもう行っちゃうの……!?」



 斬波が泣きそうな顔で俺に縋ってきた。それに俺は、左手を見せる。指輪のない左手を。



「ああ。俺の結論は出した。後は斬波と……早苗の番だ」



 俺は障害を負っている。だが俺は障害者という人間ではない。それと同じだ。



 俺の彼女じゃない。俺のメイドでもない。園咲早苗と、武藤斬波という人間としての結論を。俺抜きで出さなければならない。だから俺の存在は不必要だ。でも最後に一言だけ。



「自分が幸せにならないと他人を幸せにしようなんて思えない。だからがんばれよ。自分が一番幸せになるために」



 そして俺は改めて、園咲家を出た。

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