第10章 第24話 欲
〇ジン
「はいジンくん、これ~」
「ありがとう、侑」
侑さんにカレーをよそってもらい、夕食が始まる。俺たちのテントがカレーと焼き魚。早苗たちのテントはバーベキューと、俺が釣ったものを半分分けた焼き魚のようだ。バーベキュー……肉か……。侑がキャンプといったらカレー! と譲らなかったのでカレーになったが、この匂いを嗅いでしまうとバーベキューの方が俺はうれしかったな……。カレーも美味しいけど。
「え、カレーうまっ。めちゃくちゃ美味いっ!」
「お外で食べるカレーはまた格別でしょ~?」
「いや環境で飯の美味さが変わるわけないでしょ。普通に侑が作るカレーが美味い!」
「うれしいけど風情ないな~」
どこで食べたって同じ料理。いつもと違う環境だと特別美味しいと感じるという気持ちはわからないではないが、それは普通の人の感想。俺にその微妙な違いを感じれるだけの舌はない。
「おにぃちゃん! くるみにもカレーちょうだい!」
カレーに舌鼓をうっていると、膝の上に来海さんが乗ってきた。
「いいよ、好きなだけ持ってって」
「やったー! じゃあこれあげるねー!」
来海さんが俺のカレーの上に肉を置いた。肉……肉……。
「うっっっっま!」
やっぱ肉だ……肉肉肉……肉が美味い! 釣りやってた時も思ってたんだよ……魚より肉の方が美味いんだよなー肉釣れないかなーって! カレーも美味しいけどこれはあれだな……使ってる食材の質の違いだ。うちのは近所のスーパーで売っていたものだが、園咲家は確実にめちゃくちゃいい肉を使ってる。
別居して侑に料理を作ってもらった時、俺は死ぬほど美味しいと感じた。その時と同じだ。幸せは簡単に塗り潰される。それ以上の幸せにも、不幸にも。人の欲は終わらないということだろうか。満足に上限はない。もっともっとと脳が活発に動くのを感じる。
「ジン様、あちらにもっとありますよ」
未来さんが近づいてきて園咲家の椅子を指差す。でも……。
「遠慮しとくよ。カレーが美味しくないって感じるようになったら終わりだし、侑すごい怒ってるし……」
「ね~。失礼だよね~。そんなにあっちのごはんが食べたいなら園咲さんちの子になりなさ~い」
「いやカレーも充分めちゃくちゃ美味くて……。ということで俺に気を遣わなくても……」
「……今ジン様が食べたお肉は用意した中で最低ランクです。もっと美味しいお肉、たくさんありますよ……?」
「マジでっ!? あ……」
「ふんっ。ジンくんなんてもう知らな~い。もうカレー食べさせてあげないんだから~。だから……あっちでごはん食べてきな?」
まるで流れるように自然に素早くこっちのスペースから追い出され、未来さんが座っていた椅子へと座る。
「……どうも」
「あ、ああ……」
早苗の隣の椅子に。