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第10章 第22話 釣り

「……で、あんた何がしたかったの?」

「…………」



 俺とアクアは2人で近くの川辺に座っていた。釣りのため、なんて理由をつけて。持つ必要もない釣り竿を握りしめながら。



「……やっぱエタ兄のこと気にしてんの?」

「……それ以外ないだろ」



 玲さんが彼氏として俺の兄貴、エターナルを連れてきたこと。他にも色々ゴタゴタはあったが、結局はそれに尽きる。



「玲さんとエターナルが結婚したら、俺たちは家族になる。それだけは嫌だった。たとえ早苗と別れることになってもな」

「……あっそ。でもあんたあれ持ってんじゃん。エタ兄が玲と付き合ったのは金目当てだって録音。あれ使えば余裕で追い出せんでしょ」


「……早苗があの話は出さないようにしようってさ。エターナルと付き合うことが玲さんの幸せなら……壊すことないだろ。だったら一人だけ納得してない俺が家を出てエターナルを更生させた方がいいって」

「ふーん……あれがそんなこと言えるタマかねー……。ま、最近の暴走っぷりを見ると納得か。いるよねー、私納得してますーみたいなこと言ってんのに怒りを隠そうともしない奴。そういうタイプ嫌いだわー」



 アクアが釣り竿を揺すりながら愚痴る。お前が言うなと言ってやりたかったがこいつと会話を弾ませるつもりもない。黙って釣り竿に向き合う。



「……あ」

「すっご! 釣れたじゃん! この魚なに!?」


「知らない。まぁ食っちまえば何でもいいだろ」

「はぁっ!? あんた名前も知らない魚食べるつもり!? 毒とかあったらどうすんの!?」


「焼けば毒なんか消えるだろ」

「はぁ……ありえないわ。ミノカサゴって魚だったらどうすんの? 毒針とか持ってるんだってよ」


「毒針か……焼く前に刺されるのは嫌だな。針どこにあんの?」

「いやそれは知らないけど……」



 結局名前も毒があるかもわからず、釣り上げた魚をバケツに入れる。まぁ死ぬことはないだろう。



「にしてもあんた釣り上手いんだね」

「ミミズは不味いからな……。海老で鯛を釣るってあるだろ? よくやってたんだよ」


「は? 何それどういう意味?」

「わかんないならいいよ……」



 そう。わからないならいいんだ。



「これは俺と早苗の問題だ。だからお前らに何も言わずに出ていった。もう俺に構うなよ」

「別にあーしあんたの心配してるわけじゃないから。でもさ、あんたいないのにあーしが一人働いてんの気まずいんだよね。だから帰ってきてよ」


「お前が嫌がってるなら尚更帰りたくないな」

「なんそれ性格悪」


「お前ほどじゃねぇよ」

「どうだか。変わんないでしょ」



 再び釣り竿を川に入れ、待つ。釣りは好きだ。食糧が取れる上に空き時間に勉強ができる。まぁ今は勉強道具を持ってきてないけど。



「まぁあんたが家出した理由はわかったわ。でもさ、やっぱりあーしは話すべきだと思うよ。今のあんたの、家族に」

「……言えるかよ。俺は一度玲さんを振った。それなのに別れろだなんて、言えない」


「そうじゃなくてさ、現状エタ兄は金目当てだってことを。あんたが家出するしないに関わらず言うべきだと思う。それを秘密にして結婚してもさ、幸せじゃないでしょ。あの馬鹿家族なら金目当てだと知っても受け入れそうだし。それを言わずに内緒にしてるのが一番の身勝手だと思うけど。ただの自己満足じゃん」

「……そうかもな」


「それとあんたが家を出た理由がエタ兄と会いたくないからだって。みんな心配してるよ? ていうか気に病んでる。あんたが出てった理由が自分のせいじゃないかって」

「……それはできないよ」



 そのことに気づけたのは家出をしたからだ。一度離れてみて、理解させられた。



「俺が脚に障害を負って、それでも問題なく生活は送れると思ってきた。でもそうじゃなかったんだ。みんな俺のことを気にかけて、俺が気づきもしないところで助けてくれていた。それなのにまだ俺に気を遣えなんて、そんなこと……」

「ふーん」



 アクアが脚を支えに頬杖を突きながら、流れていく川面を眺めて言う。



「……これあーしが言ったら怒るかもだけど聞きたい?」

「聞きたくない」


「あっそ。じゃあ勝手に言うわ。知らない内に気遣ってくれたとか言ってたけどさ、家族ならそんなもんじゃない?」

「……本当にブチギレそうになったわ。どの口が言ってんだよ」



 とは言ったものの。これもアクアが気を遣って言ったのだと思うから責められないが。



「やっぱ魚気になるわ。毒あったらみんなに食べさせられないし。斬波呼んできてくれ。あいつなら魚の種類くらい知ってんだろ」



 俺とアクアの関係上厳しいことを言ったがその後に続く言葉を言えず、話を逸らすようにそう頼んだ。しかしアクアは水面を見たまま動こうとしない。



「あの人なら来てないよ。なんでも急に体調悪くなったんだってさ」

「……そっか」



 斬波が体調不良……そんなことあるのか。いやあるんだろうが、俺がいるかもしれないとなったら身体を引きずってでも来そうなものだが。



「まぁみんな色々考えてるんだろうな……」



 あれこれ考えても結局答えはわからず、俺たちはまた軽く会話をしながら釣りを続けた。

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