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第10章 第21話 甘い罠

「おにーちゃんっ!」



 テントから出た俺と早苗が顔を見合わせて叫ぶと、テントから勢いよく女の子が飛び出してきた。園咲家六女の来海さん。テントから出てきた彼女は俺の姿を見るとぱぁっとした笑顔で駆け寄ってくる。



「おにいちゃんひさしぶりっ!」

「ああ……うん。実際すごいひさしぶりに会った気がする……何章ぶり?」


「急にいなくなっちゃってすごいさみしかったっ! いつ帰ってくるのー?」

「うん……それは……その……」



 こうなる可能性は考慮していた。海で出会ったということは、俺たちのスケジュールを完全に把握しているということ。だからキャンプ場に来ることだって想定内だった。でも早苗が帰るって言ってたから大丈夫かと……甘かった。しかも来海さんまでいるなんて……。杏子とは違って年相応のかわいさがあるこの子に抱きつかれたら、無下にはしづらい……。



「! ジン……さん……」



 そして来海さんの声につられたのか、四女の愛菜さんまでテントから出てきた。いつも俺につんけんしている愛菜さんは初めて俺をさん付けし、今にも泣きだしそうな顔を浮かべると頭を下げた。



「ごめ……んなさい……! あたしのせいなんでしょ……? 色々ひどいこと言っちゃったから……。そのせいでジンさんは……」

「違う違うっ! 全然愛菜さんのせいじゃないっ!」


「……ジンさんは優しいから……全然怒らないから……調子に乗ってたの……。ごめんなさい……もうひどいこと言わないから……帰ってきて……?」

「いやほんと……違うんだって……!」



 何でこんなことになってんだよ……早苗ちゃんと説明してないのか……? とりあえず泣きそうになっている愛菜さんをどう慰めようかと考えていると、後ろから肩を組まれた。



「やっほー、ジンくん。うちのメイドは元気にしてる?」

「グ……グレースさん……」



 園咲家長女、グレースさん。この人もいるなんて……。いやここに来るまで車だろうからそりゃ大人は必要か……。



「悩んでたのはわかるけどさー、ちょっとは相談してほしかったなー。どれ、今夜お話しよっか」

「いえ……その……」



 ……こうなることはわかっていた。この人たちに説得されたら俺は折れてしまうだろうということはわかっていた。だから俺は黙って家を出たのに……。どうしよう……杏子と侑は薪を取りに行っていていない。来海さんに、愛菜さんに、グレースさんに。これ以上言われたら、たぶん俺は申し訳なくなって折れてしまう。



「さな……え……!」



 口から出た答えはその名前だった。思わずではない。考えた末の呼びかけだった。俺の覚悟を知っている早苗なら何とかしてくれるはずだ。



「……お姉ちゃん。ちょっと話聞いてくれますか……?」



 来海さんが出てきた時から少し引いていた早苗がゆっくりと近づいてきた。その時だった。



「ジン……さん……」



 俺と早苗が別れることになった元凶の片割れ。玲さんまでもが姿を現す。



「ごめ……んなさい……。れいが……お義兄さんの気持ちも考えないで……勝手なことしたから……。もう、エターナルさんとは別れるから……!」

「だから! 違うんだよっ!」



 もう限界だった。耐えられない。来海さんの純粋な気持ちも、愛菜さんの謝罪も、グレースさんの気遣いも、玲さんの涙も。何もかもが耐えられなかった。



「俺が家を出たのは俺の意志だっ! 誰が何をしようが、何を言おうが俺は変わらないっ! 絶対にもう! 戻らないって決めたんだよっ!」

「だから言ってんでしょ。あんたの気持なんかどうでもいいから帰ってこいって」



 こんなはっきりと。自分の都合だけで話す奴なんて、こいつしかいない。



「アクア……」

「なんか言いたいことあんならあーしに言いなよ。あんたがどうなろうが、あーしはどうでもいいから」



 俺の実の妹までもが、出てきてしまった。

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