第10章 第18話 海と山
〇ジン
「夏といえば海でしょう!」
「夏といえば山だよね~」
旅行の話が上がってから約1時間。話は平行線のまま全く進んでいなかった。
「どっちでもよくない……?」
「兄さんは常識ないから知らないだろうけど、海派か山派かはそう簡単に切り捨てられるものじゃないんだよ!」
「ちょっと待って~。なんでナチュラルに海を先にしてるの~? 山派海派でしょ~?」
「それこそどっちでもいい……!」
杏子や侑といると居心地がいい。その理由は2人ともしっかり自分の世界があって、あまり干渉してこない。言ってしまえばそこまで俺に興味がない。だから俺も気を遣わず過ごせたわけだが……。自分の世界が強いということは、自分の意見が通らないと気が済まないことと同義である。
「山に行って具体的に何するの? ただ不便なだけだよ。それに解放感とか新鮮な空気とかわけのわからない理屈をつけて雰囲気に呑まれているだけ。木々を見たいなら近所の公園に行けばいいのに。その点海は実際に非日常。普段できない体験ができるんだよ」
「それこそお風呂入ればよくな~い? 市民プールとかもあるんだし~。何より日焼けしたくな~い。それに引き換え山は楽しいよ~? キャンプすれば朝から夜まで楽しめるし~バーベキューとか楽しいよね~」
お互い言いたいことはよくわかる。どちらにもメリットがあってデメリットがあるのだろう。その価値観の比率が個人によって変わるだけで、どちらが間違いというわけではないのだと思う。
「兄さんも海がいいよね? 水着の女の子いっぱい見れるよ。私のも見れるし」
「いや小学生の水着なんて心底どうでもいい……」
「ジンくんは山の方が好きなんじゃないかな~? ここら辺にいない虫とかいっぱいいるよ~?」
「それって俺に虫の食べ比べしろって言ってるの?」
そもそも、だ。
「俺は海も山も行ったことないからよくわかんないし、脚のせいで泳げないし登れない! だからどっか別の所の方が……」
「海は泳ぐだけじゃないよ?」
「キャンプならほとんど歩かなくて済むよ~?」
はぁ……。どうやら俺の意見を聞くつもりはないようだ。まぁ初めからわかっていたが。
「ならこうしよう。昼は海で遊んで、夜はキャンプしに山に行く。それならどっちの願いも叶うよね?」
「「そういう話はしてない」」
現実的な案を出したが一蹴。どうやら2人ともただ相手を論破して負けを認めさせたいだけらしい。
ということで論争は夜遅くまで繰り広げられ、結局俺の案が採用されることとなった。