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第10章 第15話 青春症候群

「そろそろ具体的な話をしましょうか」



 夕食を食べ、風呂にも入り終わり3人でリビングで談笑していると、唐突に杏子さんが声のトーンを変えた。無理矢理現実を直視させられとても嫌な気分になる。



「具体的な話って?」

「今後の展望です。目的と言った方がわかりやすいでしょうか」



 ソファーに座っていた杏子さんが立ち上がり、ノートとペンを手にして戻ってくる。



「早苗姉さんのことは置いておくとして、とりあえずお義兄さんの将来の夢は恵まれない人たちの環境を整えることですよね? 会社を立ち上げる……まずはそういった企業に入社した方がいいでしょうか。福祉関係の会社に入るにも、大きな企業の方がいいですよね。障害者雇用もあるでしょうし。まぁお義兄さんの学力があればどこでも入れるでしょう。もっとも、常識のなさが露呈しなければですか。そこで数年学び、いずれ独立……。こんなストーリーでいいですかね?」



 ノートに書きながら、わかりやすく口頭でも説明する杏子さん。ほんとに小学生かこの子。



「考えれば考えるほど、元の環境の方が良いんですよね。ここで暮らすのもいいのですが、送迎の車はあった方がいいでしょうし、父の元で経営も学べるでしょうから。それでもここで暮らすとなると介助が……」

「……悪いけど杏子さん。その夢は保留だ」



 杏子さんの手が止まり、顔が上がる。侑さんも少し驚いた顔でこっちを見ている。あれだけ夢を語ってたからな。不思議に思われても当然だろう。でもたった一日で気づかされたんだ。



「俺は善人じゃない。他人の環境を良くしようなんて、今の俺は思えない。朝一人で歩いてた時……早苗のことすら頭になかった。自分のことだけで精一杯だった。結局傲慢だったんだよ。自分が幸せだったから他人にも幸せになってほしいって思っただけで、いざ自分が不幸になると他人なんて目に入らない。そんな人間が……誰かを幸せにすることなんてできると思うか?」



 今日一日で自分の弱さに気づいた。打ちのめされた。それを知って尚誰かのために、なんて言えない。そんな無責任なことは決して。



「人間なんてそんなもんだよ~。だからこそ誰かに助けてもらうんじゃな~い?」

「そうだとしても……俺はもう。誰かの幸せは祈れません。自分が幸せならそれでいい」

「だったら園咲家に戻ればいいじゃないですか。それが一番幸せですよ」



 そう……なんだけど。そうなんだけど……。



「早苗が……。斬波が……玲さんが……」

「結局お義兄さんはお義兄さんですよ。常識知らずで行ったり来たり。軸がブレブレで自分のことを考えるとわからなくなって他人のためにって責任をなすりつける。何も変わっていません」



 ひどい悪口だ。でも笑顔一つない。遠慮なしの真剣な杏子さんの眼差しに何も言葉を挟めない。



「お義兄さんはまだ高校生です。未来への焦燥感、宙に浮いた感覚を覚えるのは当然。ゆっくり考えていきましょう。そのための夏休みです」

「……杏子さんはまだ小学生だけどね」



 さすがにそれだけは言わせてもらい、この日は勉強もせず床についた。

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