第10章 第13話 カンニング
「早苗……早苗!」
「どうしたんですか? 斬波」
杏子に会ってからすぐ帰ることもできず、夜9時を過ぎて帰宅した私は早苗の部屋の扉を力加減することもせず叩く。そして現れたのは、昨夜と同じ。私を蔑むような瞳をした早苗が出迎えた。
「ジン見つかったって……!」
「ええ、そのようですね。どうでもいいですが」
「どうでもいいって……迎えに行かなくていいの!?」
「私と彼は何も関係ありませんから。それより斬波、誰も彼を捜しに行けなんて言っていませんよ。仕事の放棄はいただけません。私の彼女なので大目に見ますが」
「早苗の相手は! 私じゃなくてジンでしょっ!?」
「……私と須藤塵芥くんは。既に破局しています。これ以上言わせないでください」
突き放すように言い放つと、早苗は勉強机へと戻っていった。その椅子の後ろには早苗のメイド、未来の姿がある。
「……なに。まさか本気で園咲家当主になるつもり? やる気も適正もないくせに」
「だから勉強しているんじゃないですか。高校を退学するかはまだ決めかねていますが、これは譲れません。私にできた新しい夢ですから」
「……未来はそれでいいの。ジンを見捨てて。仕事だから仕方ないとでも言うつもり?」
「……その通りです。それに加え、私情を挟ませていただけるのなら。私が次期当主のメイドになれれば、遠縁でしかない私の家が救われます。だからこの状況は、私にとって好都合なんです。……性格が悪くて申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうな口調で、未来が横目を向けてくる。そしてその情報は今聞きたくなかった。
「これでわかりましたよね。私と塵芥くんが付き合っていると、多くの人を不幸にしてしまうんです。それがわかったのなら、自分の部屋に帰ってください。勉強の邪魔です」
あえて自分が捨てさせた名前を口にし、私を突き放そうとする早苗。でもそんなことでへこたれてなどいられない。
「私が! 私が必ず……早苗とジンを、元通りにしてみせるから……!」
「そうですか。プライベートにまで口を出すつもりはありません。したいのなら勝手にどうぞ。でも無駄な努力は嫌いなはずでは? 私もジンくんも頑固ですから。譲ることはしませんよ」
あぁそうだろうね。私にできることなんて何もない。どれだけ努力しても何も変わらない。
「やっぱ私、ジンと似てるわ」
なんて考えても仕方ない。ジンが幸せになるために塵みたいな環境で全国1位になったように。私は私の幸せを諦められない。
「ただ一つ違うのは、私が悪人だってこと。覚悟しといてね。頑固なのは私だって一緒だから」
私に勉強を頑張って全国1位になるなんて果てしない努力なんてできない。やるんだったらもっと効率よく、カンニングする。これが私の努力だ。