第10章 第5話 別れ
「もう自分でもわからないんです……。ただジンくんと一緒にいるだけで幸せだったのに……その幸せは、誰かを傷つけてしまう。私ばっかりと思わせてしまうし、やりたくないことをやらせてしまうほど追い詰めてしまう。そんな……私のわがままで誰かが不幸になるなんて……耐えられません。もう辛いんです……自分が幸せを満喫しているのが。だからジンくん……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。私と別れてください……!」
きっとこれは一時の感情だ。玲さんに責められ、心が動揺している。おそらく一度寝ればまた別の回答が出てくるだろう。そしていつか、再燃する。自分を許せないと。
「俺さえいなくなれば斬波は早苗と付き合って……玲さんもエターナルと付き合える。だから俺は邪魔か……」
きっと誰も、俺に出ていってほしいなんて思っていない。それは間違っていると言ってくれることだろう。
「……その通りかもな」
でも他人なんて関係ない。あくまで自分だ。俺が犠牲になって誰かが幸せになるのなら……俺はそうしたい。いや、違うな。そんな自己犠牲精神に満ちた善人ではない。俺はただ、この努力の甲斐ない、出口の見えない今がとても嫌いなんだ。
「悪いけどお義父さんやお義母さん、姉妹やメイドたちには黙って出ていく。引き止められたらたぶん俺は、動けない。ほんとに不義理で申し訳ないけど……そんな覚悟、到底持てない」
そう言いながら財布を漁る。お小遣いでもらった3万円がそのままあった。
「これで今着ている服と杖、買い取らせてくれ」
「待ってください。金銭面の援助はさせてください。そうじゃないと……」
「いや……やめといた方がいい。もうきっぱりと、今後一生会わないくらいに思ってないと。甘えちゃうよ、どうしても」
「ですが……それは……」
「それとクソ親が俺にかけてた生命保険……受取先は園咲家にしといてくれ」
「……死ぬつもりですか?」
「別にそういうわけじゃないけど……今まで使ってもらった金は返さないとな。でも今までみたいに死んでも努力して成功してやろうなんて……思えないから……最悪の手段として考えてくれ」
「……止めても無駄なんですよね」
「さすがにそれくらいの覚悟はしとかないとな。まぁ大丈夫だよ。死にたくはないからさ」
「そう……ですか……」
さて、やるべきことは決まった。だとしたらいつまでも長居するわけにはいかない。ベッドに座ったまま俯いている早苗に、とある物を渡す。
「これ……返すよ。斬波にも渡しておいてくれ」
左手の薬指に嵌った2つの指輪。それが彼女の空いた左手に乗る。目に映るのは4つの指輪。本当なら後2つあったはずなのに。そんなことを思っていると、指輪に雫が垂れた。
「やっぱり……いやです……。こんな……こんなの……いや……。いや……いや……! なんで……こんなことに……!」
もうこの場所にはいられない。静かで大きな嗚咽が響く中、俺は出口へと歩いていく。
「やだ……やだぁぁぁぁ……っ」
その姿を見ることなく、声をかけることもなく。俺は早苗と別れた。