第10章 第3話 勝ち確
「玲さん、俺は玲さんの幸せを想って……!」
「玲ちゃん。今日は帰るよ」
玲さんを救おうとした俺の言葉を遮ったのは、さっきまで不気味なほど黙っていたエターナル。そして一度口を開いたら止まらない。爽やかに、善い人そうに。わざとらしい演説を始める。
「アクアや塵芥の言っていることはその通りです。私は最低な人生を送っていました。多くの女性と関係を持ち、騙してきました。ですがそれは過去の話。玲さんと出会った今。私は彼女のためだけに生きようと思いました。過去は消せません。ですが玲さんとの未来のために生きようと思ったんです。もちろん玲さんは未成年。手は出していませんし、今すぐ結婚させろと言うつもりはありません。ですが認めてほしいのです。玲さんの幸せを。今すぐにとは言いません。みなさんが認めてくれるまで、どれだけ時間がかかっても。証明してみせます。私が玲さんを幸せにすると」
「それでは失礼します」。深々と頭を下げ、エターナルが去っていく。その間俺やアクアは何も言えなかった。今までの人生を反省していたからではない。全く反省していなかったからだ。
「アクアぁっ!」
「わかってるっ!」
さっきまでの騒々しさが嘘だったかのように静まり返った食堂に、俺とアクアの叫びが木霊する。そして全員がポカンとしている中アクアの背に飛び乗り、追いかける。奴の本性を確かめるために。
「エターナルっ!」
閉じられかけたエレベーターの扉を無理矢理こじ開け、大きな密室に集合する。俺たち、元兄妹が。
「よぉ、ひさしぶりだな」
そしてさっきまでの言動は嘘だったと証明するかのように、エターナルは笑う。心底悪辣に。
「お前……どういうつもりだよ……! 何が目的だ……!?」
「ああ、前にトラからお前のことを聞いてなぁ、塵芥。俺も利用させてもらうことにした。一番気弱そうな御令嬢に目をつけて、後輩に襲わせ、ヒーローのように助ける。にしても簡単だったよ。これで俺も、金持ちの仲間入りだ」
あまりにも。あまりにも普通に、最悪のシナリオを語るエターナル。やっぱりそうだった。玲さんはエターナルに騙されていた……!
「お前ぇっ!」
「まぁ仲良くしようぜ、塵芥」
絶叫を我慢できない俺の肩に、エターナルの手が乗る。そして。
「お前の女もいい身体してんじゃねぇか。今度使わせてくれよ。俺の女も貸してやるからさ」
「っ――!」
殴り飛ばそうと振り抜いた拳が空を切る。エレベーターが1階に到着したんだ。そのわずかな揺れで体勢を崩し、俺の身体はアクアの背中から落ちてしまう。
「じゃ、そういうわけで。これからもよろしくな、弟」
そして床に這いつくばる俺を見下し、エレベーターの扉は閉まった。
「塵芥……止めないでね。私があいつを殺すのを」
「お前が手を汚す必要もねぇよ」
俺はエターナルなんかとは違う。頭がいいんだ。だから既に、あいつは負けている。
「今の会話、全部録音しておいた。俺の大切な人をこれ以上不幸にしてたまるか」