第10章 第1話 永遠の略奪者
「お義兄さん。れい、彼氏できたんだ……」
玲さんからそう聞かされたのは、期末テストも終わり夏休み真っ只中の夕食前。テーブルに料理が運ばれる中、俺に近づいてきて突然そう告げてきた。
「へー……それは……よかったね、おめでとう」
なんて返せばいいかわからず、とりあえず祝福する。約1ヶ月前に俺に告白してきたかと思えば1ヶ月で他に好きな男できたんだ……。別に悪いことじゃないし、普通におめでたいけどなんというか……複雑な気持ちだ。
「その人ね……お義兄さんに負けないくらいかっこよくて、素敵な人なんだ……。怖い人たちに絡まれてた時に助けてくれたの……。お義兄さんみたいに王子様みたいで……本当に、お義兄さんそっくりな人だったの……」
「俺そっくりだったらちょっと警戒しないとな。ほら、俺常識ないから」
「大丈夫、お義兄さんよりも常識はあるから」
「そうですか……」
「それでね……挨拶したいって言ってたから今日呼んだの……。もうちょっとしたら紹介するね……」
「うん、楽しみにしてる」
いつものビクビクしている姿からは想像できない笑顔で語り終えた玲さんが小躍りするように食堂を出ていく。幸せそうでよかった。慣れない自虐をするほど返答に困ったからな……。俺に常識はないのは確かだけど、期末テストで未来さんを抑えて学年1位を取った俺に欠点はないってのに。
「よかったですね、ジンくん」
「ほんとほんと。ちょっと節操ないとは思うけどね。まぁ元々どっちかっていうと恋に恋してるタイプだったししょうがないか」
少し離れたところで玲さんの話を聞いていた早苗と斬波がいつものように近づいてくる。そう、いつものように。あれから何も、変わりなく。
「これで少しは元に戻れるでしょうか……」
いや、少し違うか。変わってないわけがないのだ。身内であんなドロドロした悪事が行われて、今まで通りというわけにはいかない。ただ臭い物に蓋をして見ないようにしているだけで、やはり少し。俺たちの間には隔たりが生まれてしまった。だがその元凶とも言える玲さんが落ち着いた今なら。早苗の言うように、元の関係に戻れるかもしれない。
「大丈夫だよ。な、斬波」
「うん……そだね」
早苗の言葉に無理矢理に同調していると、玲さんが食堂に戻ってきた。後ろに男を引き連れて。
「みんな……紹介するね」
そして家族やメイド全員が集まった食堂で玲さんが言葉を発する。だが次の言葉は、俺の叫びによってかき消された。
「エターナルゥゥゥゥゥゥゥゥっ!」
玲さんが連れてきた男。玲さんの彼氏の名前。須藤永遠。
俺の兄貴にして、須藤家次男。俺の元家族が、またも俺の幸せを奪い取ろうとしていた。
新作になります。よろしければどうぞ。
小悪魔サキュバス後輩と陰キャ大魔王先輩
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