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第9章 第13話 道化

「ん……ぅぅ……」

「おはよう、玲」

「ひぃっ!?」



 翌朝朝6時。ジンの布団にくるまっていた玲の身体が揺れたので声をかけてみると、悲鳴を上げて飛び起きた。



「そ……その……あの……ごめ……ジンさんに……ごめんなさ……」



 そして私の目を見れずにしどろもどろになりながら謝罪を行おうとする玲。自分が悪いことをしたという自覚はあるのだろう。ならば問題ない。自覚して悪事を働いた本物の悪人になら。私の気持ちを伝えられる。



「ジンと早苗、別れるかも」



 ふるふると震えていた玲の身体が一度大きく跳ねた。そしてじわじわと顔を上げ、私に顔を見せる。申し訳なさそうにしながらも、確かに喜んでいるその顔を。



「まぁ可能性的には一割未満。本当に可能性、だけど。玲の行動と、私の言葉と、瑠奈の八つ当たりで。あの2人の関係にヒビが入った。それだけは確かだね」



 ジンは早苗を本当に好きか不安になった。逆も然り。とは言っても可能性は0に近い。2人がちゃんと話し合えば、きっと関係は修復される。だが一度入ったヒビは修繕したとしても内部には傷が入ったまま。今までどれだけ努力をしてもあり得なかった可能性が生まれたのは事実だ。



「だからアタックするなら今日がチャンスだよ。ちゃんとジンに謝りな。……早苗とジンと、3人でいるタイミングで。玲がジンのことを好きだと早苗が知ったら……今の早苗なら。たぶん、身を引こうとすると思う。本当に好きな人と付き合うべきだとか何とか言って。まぁジンはそれを認めないだろうけど……泣いてお願いしたら、ジンは断れない。つまりさ、善人の優しさに付け入れれば、悪人の自分本位な願いは叶うってわけ」



 玲とジンが付き合えば、早苗は私に依存してくると思う。真実の愛とか何とか言っていたが、どこからどう見ても早苗はジンに恋してるし愛してる。そんな人が奪われたんだ。早苗の心は大きく傷つく。そこに私が付け入れば。私が早苗を好きだと知っていることも踏まえれば、間違いなく。早苗は私と付き合ってくれるだろう。それでもだ。



「私がそうはさせないけどね」



 玲の顔が見えなくなった。私が下を見ているから。もう何も見たくなかったから。



「私には好きな人が2人いる。私と一緒にこれまでを生きてくれた早苗。私の未来を切り拓いてくれたジン。どっちも大好きで、どっちも自分の命より大切な恩人。その2人を裏切るわけにはいかない。2人には誰よりも幸せになってほしい。だから2人を別れさせたりなんかしない。死んでもね」



 これは本心だ。心からの言葉。だが一つのことだけを考えられるような善人でもないのだ。



「ただそれでも玲が私の上を行ってジンと付き合うのなら……私は早苗にアタックする。本気でね」



 結局一番の悪人は私だ。善い人みたいなことを言っておいて、良いとこどり。どっちに転んでも格好がつくように動いている。でもそれが私だから。ジンは私に悪いことをさせないと言ってくれたけど、先に約束を破ったのはジンの方だから。だからもう、しょうがない。



「さぁ努力しようか。私たちの幸せのために」




〇ジン




「ん……ぅぅ……」

「おはようございます、ジンくん。私より起きるのが遅いなんて珍しいですね」


「ああ……ちょっと疲れてたみたいだ」

「そうですね……私もジンくんと1週間も離れて疲れていたようです。かなりぐっすり寝てました」


「……ちゃんとした睡眠ってすごいな。2時間3時間の睡眠じゃ足りないってわからされた」

「そうですよ。ちゃんと寝ると頭がすっきりするんです。色々考えて答えが出なかった悩みが嘘のように解決しました」


「ああ俺も。やっぱり俺、早苗のこと好きだよ。なんでこんな当たり前のことに気づかなかったんだろうな」

「はい、私もそうです。私もジンくんのことが大好きです。この感情が偽物のはずがありません」

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