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第9章 第6話 悪人 2

「……玲、何やってるの」

「ひっ」



 私の部屋に戻ってそう声をかけると、人の形が浮かび上がったベッドから小さな悲鳴が聞こえた。そして玲の頭が顔を見せる。その布団の中がどうなっているのかはわからないが、少なくとも肩の肌は晒されている。そしてその隣には目を閉じて静かに眠っているジンの姿もある。どこからどう見ても浮気現場。まぁそれはありえないけれど。



「ジ……ジンさんが……れいを襲って……その……!」

「あぁそう。じゃあジンを追い出さなきゃいけないね」


「そ……そこまでは……。責任を取ってれいがジンさんと……!」

「そんなことあなたの両親が黙ってると思う?」


「じゃ……じゃあ2人で家を出ていきます……!」

「……はぁ。わかってたけど、そこまで考えなしだったとはね……」



 きっとここにいたのが早苗だったとしても同じことを言っただろう。高校生が金も職も家もなく生きていけるものか。それこそジンみたいに虫や草を食べて野ざらしで生活できるなら別だけど、このお嬢様たちにそんな生活能力があるはずもない。本当にこの姉妹は……まったく。



「あのね、玲。この部屋には監視カメラが仕掛けてあるの」

「……え? でもそれは……外したって……!」


「初めのはね。でも私がジンを好きになってからもう一度つけたんだ。ジンのためじゃない。私のために。私が早苗に嫌われないためにつけたんだよ。そうすれば変な気は起こさないでしょ? だから……映ってる。玲が睡眠剤を盛ったところも」

「ぅ……ぅ……」



 ジン……言ってくれたよね。もう私に悪いことはさせないって。嫌な思いはさせないって。でもこれ……すっごい嫌だ。損な役回りだ。



 でもジンを責めるつもりはない。きっと私は、こういう生き方しかできないのだから。



「玲。こういうのやめよう? ジンを好きになる気持ちはわかる。顔がいいし背も高いし優しいし……」

「そんな理由で好きになったんじゃないっ!」



 玲は叫ぶ。初めて聞いた大声で。すぐ隣にいれば、目が覚めてしまうくらいの、大きな声で。



「ジンさんは……れいに夢をくれた……。夢を見てもいいって……言ってくれた……。だかられいも……ほしくなった……。もっともっと……! おねぇちゃんみたいにほしいものはほしいって……言いたかった……」

「……じゃあ言えばいいじゃん。そんな卑怯な方法じゃなくて。直接、好きだって、ジンに」


「言えるわけない……! そんな……絶対に叶わない夢を口にできるわけが……!」

「そういうところだよ。私も玲も。だからたぶん、駄目なんだろうね」



 昔の自分を見ているようだ。好きだけどその夢が叶わないことはわかりきっていて。でも諦めきれなくて、それでも正面から言えるような度胸はなくて。悪いことをするしか、なくなる。どうしようもない、悪い人。悪いことをすれば当然、報いが来るのにね。



「まぁその……なんだ。とりあえず服を着ようか」



 慣れないことはするものではない。あんな大声を出せば不眠症を患っているジンは目を覚ます。



「いや……いやぁ……!」



 あの時の私は幸運だったと思う。早苗は私がメイドを辞めるというショックで気絶してくれたから。でも玲の場合はそうはいかない。しっかりと自分の夢に、向き合わなくてはならない。

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