第9章 第5話 幸せの裏側
私と瑠奈が向かい合う。視線が交わる。でも見ているのは、お互いその奥。その先にいる、お互いの一番大切なものしか目に入らない。
「……玲ちゃんはさ、自分に自信がないんだよ。やりたいことも、夢だって語れない。それでもせんぱいに会えて、多少は前を向くことができた。その想いがいずれ恋心になることも、想像に難くなかった」
「それがわかってるのなら……!」
「ルナは。玲ちゃんが前を向く必要なんてないと思う。明けない夜はない。止まない雨はない。ずいぶん独善的な言葉だよね。まるで朝や晴れしか存在を許されないみたい。夜や雨が好きな人だっているのにね」
「話逸らそうとしてる……?」
「多少は、ね。たとえるのなら朝や晴れは早苗ちゃんで、夜や雨は玲ちゃん。きっとせんぱいは玲ちゃんを振って、早苗ちゃんとの愛を育むんだろうね。そして振られた玲ちゃんは、この恋で成長できたとかほざいて前を向くんだと思う。それが既定路線で当たり前の出来事。……なにそれ。まるで今の玲ちゃんが間違ってるみたいじゃん」
「人の男盗ろうとしてるんだから間違ってるでしょ」
「はは、やり返されちゃった。あーあ、なに苛ついてるんだか。別にルナは恋愛のことだけを言ってるんじゃないってわかってるでしょ? だっておねえちゃんだって、夜が似合ってるから」
「……私が夜ならあんたは朝だね」
「そ。だからルナには玲ちゃんの気持ちはわからない。……でも、おねえちゃんならわかるでしょ? 玲ちゃんの気持ちが」
「……うん。よくわかる」
私も玲と同じだ。いや、それ以下か。隠れて早苗にひどいことをして、ジンを排除しようとして、そしてジンを早苗から寝取ろうとした。
自分が間違っている。そんなことはわかっている。それでもほしいんだ。幸せが。悪いことをしてでも、太陽を道連れにしてでも。地に這いながら、それでもいいよと言ってほしいんだ。
「私が一番わかっているからこそ、言える。間違っていたら、駄目なんだよ」
「……その気持ちはルナにはわからないから。きっと玲ちゃんには伝わらないんだろうね」
意気込んで乗り込んだ割には押し切られてしまったような気がする。結局わかったことは、玲が独断で行動しているということと、瑠奈は玲を止める気はないということ。だから私が、動くしかない。同じ穴の狢の、私が。伝えてあげないといけない。
人間向いていることと向いていないことがある。早苗や瑠奈みたいな人から好かれ、自分から行動できる人と。私や玲みたいな、前者の人の綻びの隙間を補うような生き方しかできない人では幸せの種類が違う。
幸せになれないのではない。手に入れられる幸せの形が違うだけ。誰もが想像するような大きな幸せを掴むことはできないけど、小さな幸せを継ぎ接ぎして大きくすることはできる。
私もかつてはそうだった。分不相応な幸せを手に入れようとして、自分が惨めになっていた。でも今は違う。大切な人2人の二番手にいられることがどれだけ幸せか。
それを伝えないと。きっと幸せの欠片は掴めないほどに小さくなってしまうだろう。