第9章 第3話 努力の方向性
「勉強しよ! 勉強勉強!」
「う……うん……そうだね……」
斬波を呼びにきた玲さんに、先程持ち掛けられた勉強の話をしたが、どうやらあまり乗り気ではないよう。まぁネグリジェを着て寝る準備万端。そうなるのも無理ないかもしれない。
「嫌ならやめようか。それじゃあおやすみ」
「ま……まって……っ。少し……お話しない……?」
お話か……。別にいいんだけど……。
「大丈夫? なんか今日いつもと様子違ってたけど」
「そ……そう……だね……。でも……れいも変わらないといけないと……思うから……。ほしいものはほしいってちゃんと言わないと……何も……叶わないから……。ジンさんに教えてもらったから……っ」
なるほど、話すのが苦手だからこそ俺で特訓しようということか。それなら協力しない理由はない。
「よし、じゃあお話しよう」
「う……うん……。そ……それと……飲み物持ってきたから……飲んで……?」
そう言うと、玲さんはポケットからペットボトルを取り出した。何か白濁とした液体だ。どんな飲み物か気になるが、言われたところで俺には理解できない。ありがたく受け取り、口の中に注いでいく。
「なんか……変な味。あ、ごめん。そういうこと言って」
「い……いいんだよ……別に……」
不味いとも苦いとも言えない何とも変な飲み物に思わず苦言を呈してしまったが、それを用意した玲さんはなぜか微笑んでいる。
「れいね、ずっと羨ましかったんだ。早苗おねえちゃんが。ほしいものはほしいって言えて、自分で幸せになれる人……。れいもそんな人になりたかった……。でも無理だから……諦めてたけど……諦めたくない理由が、できたから……」
その微笑みにどこか恐怖を覚えだした頃。
「あれ……? なんだか眠く……?」
俺の身体がゆっくりとベッドに沈んでいく。最後に俺の視界に映ったのは。
「ジンさんの言った通りに……努力するね……?」
いつもの彼女とはまるで違う表情をした、笑顔だった。