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第9章 第1話 マウント

「ただいま帰りました」

「おかえりなさいっ!」



 入院してからちょうど1週間後。無事退院の許可をもらった俺は斬波に車椅子を押してもらい、園咲家へと帰還した。時間はちょうど夕飯時。食堂では家族がみんなで俺を迎えてくれ、テーブルには俺の好物。肉、肉、肉の山。味のしない病院食を食べるしかなかった俺には文字通りご馳走だった。



「すいません、1ヶ月ほど車椅子になりそうです。ご迷惑をおかけします」

「少し前に戻っただけだ。謝るようなことじゃないよ。それより早く食事にしよう」



 お義父さんに簡単に説明し、斬波に椅子をどかしてもらい車椅子を入れる。上座のお義父さんとは正面の位置のいつもの席。だが配置がいつもと違う。左隣に早苗がいるのはいつも通りだが、本来斬波がいるか、誰もいないはずの右隣には玲さんがいた。俺が幅の広い車椅子のせいもあって、下座がギチギチになっている。



「斬波どこ座るの?」

「……私は後でメイドたちと食べますのでお気になさらず」



 この状況を聞き出そうと直接言葉にせず斬波に確認すると、なぜか斬波は玲さんの後ろ姿を睨みつけながらそう口にした。つまり玲さんの勝手な行動……ということだろうか。後でちゃんと聞いておこう。



「それじゃあいただきます」

「いただきます!」



 何はともあれごはん! 肉! 美味い! え、ほんとに美味しい……。涙が出そう……ていうか涙が出てる。本当に幸せだ……生きててよかった……。



「ジンくん、あーんっ」



 涙を拭きながらとにかく肉を頬張っていると、早苗がからあげを口に運んでこようとしてきた。咀嚼中に口を開けるのは失礼なことだと学んだので手で制止して、口の中の肉を飲み込んでいく。



「……ジンさん。ジンさんのためにケーキ用意したの。……後で食べる?」

「うん食べるっ!」



 ちょうど口の中が空っぽになるタイミングで玲さんに話しかけられたので答えてしまう。これではまるで早苗より玲さんを優先したかのようだ。



「ごめん、早苗。食べていい?」

「は、はい。あーんっ」



 箸でからあげを摘まみながらすごい顔で玲さんを睨んでいた早苗だが、俺に声をかけられすぐに笑顔を見せる。なんだか懐かしい光景だ。



「入院中暇じゃなかったですか? 大丈夫でしたか?」

「みんながお見舞いに来てくれたから全然大丈夫だったよ。それにひさしぶりに勉強に集中できた。今度の期末試験は絶対に1位取れる。取れますからねお義父さん! 期待しておいてください!」

「そ……そう……がんばって……」



 中間試験では未来さんに負け2位に甘んじてしまったが、1週間みっちりと対策をしておいた。負けなどありえない。さらにだ。



「早苗、俺が勉強見るよ。大丈夫安心して。早苗に時間を使っても俺が圧倒的に大差をつけて! 1位取るから!」



 みんなが見ている前でハンデをつけてやった! どうだ未来さん! これが俺の覚悟だ! なんで本気でうざそうな顔してるの?



「べ、勉強ですか……? 私はいいですよ……そんなことよりお話しましょう?」

「そんなことって……」



 そうだった。園咲家の人たちは勉強の出来に興味なかったんだ。クソ……絶対に1位取れるのに……!



「……ジンさん。おねえちゃんが嫌なら……れいが勉強見てほしいな……」

「えっ!? いいのっ!?」



 玲さんが! 俺の勉強の価値を認めてくれた! 初めてかもしれない! この家に来てから学力に期待されたのは……!



「玲さん! 俺が絶対に君を学年1位にしてあげるからね!」

「うん……。期待してるね……」



 やったー! うれしい! 勉強が認められるなんて……努力が報われた気がする……。そのはずなのに。なぜか俺の両隣からは、ピリついた空気を感じていた。

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