第九話 住処の提供
複数人が居るせいか少し窮屈に感じる質素だが清潔な部屋の中央で円卓を囲んで彼女達は談笑していた。
その側には壁のような物と黒い箱、円卓の上には特徴的な銃と物が溢れそうなカゴが置かれている。
天井近くには2つの青白い人魂が揺らいでいた。
その部屋には照明も窓もなかったが日常生活を送る際には支障をきたさない程度に明るかった。
「まさか俺に交渉の才能があったとは…」
「あっぱれ、あっぱれ」
「いやいや、驚いたぜ。
情報どころか住居まで手配してくれるなんてな。
色々と言ってみるもんだな」
「監視付きとは言え現実世界のワンルームボロアパートと比べれば天国さ」
「これで酒を呑めたら文句が無いんだがなぁ」
黒いローブの女性が己の才能にうち震え、他の者が自画自賛をしながら寛いでいた。
なぜか幼女は小動物を抱きしめている。
しかし、ここだけの話だが…彼女達はまるで交渉という物を理解していなかった。
最初こそ物言いは丁寧であった。
相手にどう言えば伝わるのか彼女達は頭を寄せて相談しながら伝えていた。
だが文章よりも単語の方が伝わり易いと分かった途端からダメだった。
まるで蛮族のようにそれぞれが好き勝手に欲望をひたすら叫ぶ姿を人は交渉とは言わない。
しかも相手はその類のプロ。
訓練された忍耐力と話術で欲望しか叫ばない蛮族達を上手く誘導し、いいように情報を引き出されていた。
その結果が監視付きの身柄の確保である。
どうやらある程度の有益性を見込まれたようだ。
彼女達の知りうる全ての情報よりもその身体の仕組みの方が有益だと考えられた可能性が高い。
どんなに怪我を負っても死なない身体、それは研究素材としては優良物件である。
さらに言えば身柄を確保される際に彼女達にとって不利な条件さえ押し付けられているが彼女達は気が付いていなかった。
「でもここが迷宮だという事を否定された時は騙されているかと思ったが…」
「あれを見せられたら納得するしかないよな」
「まさかエネミーだと思っていた触手が機械だったなんてねぇ」
「今は本物の生き物にしか見えないが…これがロボットなんて目の前で組み立てられてなかったら信じられなかったしなぁ」
「うりゃうりゃ」
幼女の執拗な接触を嫌がるように拘束から逃れようと呻き声をあげてもがく猫と兎を混ぜて非常に高い柔軟性を持たせたような生き物に全員の視線が向いた。
否、彼女達の言葉が正しいならばその柔らかそうな小動物は作り物らしい。
ちなみに、彼女達が鳴き声として認識している呻き声はこの世界の言葉である。
しかし残念ながら彼女達はそれを聴き慣れておらず言葉と認識していない為、死霊を使って翻訳しようとも考えていない。
実に哀れな小動物…否、ロボットであった。
「それで…これから先はどうする?
レベル上げの為にロボットを壊すか?」
「ウォルターはダメ」
彼女達が一瞬だけ向けた獲物を見る飢えた獣のような視線に気が付いたのか小動物型ロボット、ウォルターはより一層暴れたが幼女の拘束から逃れられない。
さらに幼女は体を捻って他の者からウォルターを隠した。
ちなみにウォルターという名前の由来はウォーター、つまり水である。
猫は液体というジョークと非常に柔軟性が高い特徴から幼女が名付けたものだ。
「うーん…それはちょっと難しくないか?
そいつを見てみろよ。
俺達の知っているロボットと違って自我ってやつ?
そんなのを感じるぜ?
襲ってくるならともかく、手当たり次第に破壊すると反感をもたれそうだ」
「【迷宮の國】の主なレベル上げはエネミーを倒す以外にも国が仲介していた色々な依頼を達成しても上げられたよな?
俺達が働けば経験値を稼げてレベルが上がるんじゃないか?」
「うへぇ、ゲームの世界でも就職活動なんて嫌だぞ。
俺達は言葉すら分からない外国人労働者よりも不利な状態だろ。
誰が仕事を任せるかっての」
「そもそもメニューの機能はステータスとスキル以外は使えない。
何か条件をクリアすれば依頼を受ける機能のクエストが使えるようになるのかもしれないけど、その手がかりさえ無い。
無難に処理するロボットを斡旋してもらえるようにお願いしよう」
彼女達の話が纏まったのを見計らっていたのか、部屋に軽い音が響いた。
少し間が空いて壁が開くとそこから2人のメットを被った者が入ってきた。
円卓から立ち上がった黒いローブの女性が死霊を介して単語で会話すると他の女性達を呼んだ。
「おーい、どうやら検査の時間らしい。
さっさと行ってレベル上げの件を相談するぞ」
彼女達は緩やかな返事して黒いローブの女性、ひいてはメットの2人についていった。
【メニュー】
【迷宮の國】のシステム。
迷宮内部やキャラクターの状態を確認したり、スキルやアイテムの使用などができる。
現在の彼女達にはステータス、スキル、マップ、アイテムの一部の機能が使える。