第五話 忍び寄る危険
壊れた壁を境に4人の女性が疑いと不安の視線を向けるなか黒いローブの女性は淡い黄色の物体を両手で弄りながら平然としていた。
「メリット?
残るメリットなんてあるか!?
俺達が人間じゃないとバレているんだぞ!
どんな事をされるか分かったものじゃない!」
大柄な女性が興奮した様子で叫ぶ。
凛々しい顔がますます迫力のある表情だ。
それに同調するように褐色の女性と赤帽子の女性が不安そうに頷く。
幼女は監視していた者が出て行った壁を手当たり次第に叩く。
どうやら誰でも壁が開く訳ではないようだ。
しかし、叩く度に硬い物が壊れる音と共に壁が砕けたり凹んだりしている。
時間を掛ければ幼女だけでも壁の破壊は可能なようだ。
「…未知こそ」
「「「「楽しんでこそ人生」」」」
その一言に思い入れがあったのだろう。
先程までの様子からがらりと変わって彼女達が声を揃えて唱える。
それで少しは落ち着いたのか4人は黒いローブの女性に静かに近付いていく。
「ここで情報を得る」
黒いローブの女性は集まってきた4人に対して淡い黄色の物体を差し出し座るように促した。
そして自分は黒い箱に座りたっぷりと間をとって語り出した。
「俺達に必要なのは情報だ。
文字や言葉はもちろんの事、迷宮や魔物の有無、俺達自体の事など知るべき事は膨大だ。
ここに残ればそれらが全て手に入る。
それを下手に逃げてみろ。
あいつらにとって俺達は未知の存在だ。
その上、すでに怪我人も出している。
怪力、武器の創造なんかも危険視されるだろう。
こんな柔らかい拘束と緩い監視から抹殺対象にグレードアップ間違いなしだぞ」
自信に満ちた様子だがその根拠はなんだろうか。
己に都合の良い事を述べているようにしか聞こえない。
「そ、そう言われると確かに」
「初見殺しの多かったゲームだから情報は命綱だったもんね」
「待て待て!
そんなに上手く情報を得られるものか?
俺達は言葉も分からないんだぞ?
英語の成績を忘れたのか!?
今回はそれよりも難易度が上だぞ!」
「抜かりない!
俺とこいつの設定を思い出せ!」
黒いローブの女性が幼女に指を刺す。
突然、指名された幼女は呆けた表情も一瞬だけ。
可愛らしい顔をキリッと引き締め立ち上がる。
「設定って…ネクロマンサーとオーファンのか?
でもスキルは使えない…」
「…沼エルフと孤児院の事か?」
「かたや数百年を生きる知識に貪欲な種族」
「かたやどこの工作員養成所だと言いたくなるような孤児院」
「そうだ!
俺はすでにこの世界の言葉も理解しつつある!」
「「「な、なんだってー!?」」」
3人の叫び声が揃ったが赤帽子の少女だけが疑わしそうに見つめている。
「…で本音は?」
「命懸けの逃亡生活なんて無理」
「「「「確かにそうだ」」」」
納得の答えを得た事で大爆笑している彼女達は気が付かなかった。
天井にいくつもの穴が音もなく空いた。
その穴をギリギリ通る程の太い管が何本も現れその鋭い先端が彼女達に向けられた。
そして一瞬で笑い声が途絶えた。
天井から一気に管が伸び彼女達を四方八方から串刺しにしたのだ。
「…おーい、どうなった?
何が起きた?
暗いぞ?」
赤帽子の少女が1番に声をあげた。
頭から足まで全身の至る所を貫かれているのに痛みに呻く様子はない。
それどころか赤帽子がズレた状態で管が顔を貫通している為、突然見えなくなった事を聞いていた。
「見えない方がマシだぞ。
天井から触手が伸びて俺達を串刺しにしてる。
リョナグロを体験したくはないものだな。
痛みがないのは幸いだが触手が蠢いているから早くしないと悲惨な事になる。
早く助けろ」
黒いローブの女性は黒い箱に乗っているおかげか全員の状態を把握できる位置に居た為、分かりやすく状況を伝えた。
しかし全身を串刺しにされている為、身動きが取れる状態ではなかった。
「…え?
…なに!?
触手!?
エロ展開!?」
幸運な事に褐色の女性は1本も刺さる事なく無事だった。
しかし天井から管が降りて周囲を串刺しにされた様子にパニックを起こして何を連想したのか見当違いな事を喚いている。
既に管の先端は褐色の女性に狙いをつけている。
「救援、求む」
幼女は既に次の段階に移行しているのか空中に引き寄せられ全身を貫いた管がさらに別の場所を射抜こうとしている。
大柄な女性は全身を鎧に守られているせいか頭を集中的に狙われて話せない状態だった。
しかし、他の者よりも管の本数は少なく自由に動けたので壁のような物を手放し手当たり次第に管を引き千切っていく。
そんな異様な光景はさらに混沌へと堕ちる事になった。
【ダンサー】
【迷宮の國】のサポーター系の職業の1つ。
踊って周囲を鼓舞して戦う。
様々な補助効果のある踊りスキルを使える。
戦闘中に半裸に近い薄い生地と魅力的な肉体で踊り狂うシュールな光景に対して高い支援能力を持っている為、ふざけているようで優秀というギャップが人気。