第四話 内臓の有無
狭い室内で5人の女性が身動きが取れない状態で固まっていた。
それは取り上げられたはずの彼女達の荷物が前兆もなく彼女達から生えたからだ。
特に大柄な女性と黒いローブの女性が所持していた壁のような物と黒い箱は室内の壁を壊して一部が外に飛び出してしまっている。
さらに元々の室内が狭く足元には彼女達を拘束していた淡い黄色の物体が脱ぎ捨てられている。
体から荷物が生えた事による驚きと物理的な問題で動けないでいた。
「##!
####!」
そして壁一枚向こう側で監視していた者達にも被害が出ていた。
彼女達に何かしらの道具を向けていた2人が不運な事に飛び出した壁のような物と黒い箱にぶつかってしまったのだ。
1人は顔面に当たりノックアウト。
もう1人は股間を抑えて沈んでいる。
無事だった者が両者に対して同じ言葉を繰り返している。
どうやら名前を呼んでいるようだ。
「…こんな機能、ゲームになかったよな?」
壁と自身の荷物に板挟みになっている大柄な女性がカゴを被った状態で確認するように尋ねる。
「ない。
そもそもアイテムやお金と違って装備を失うなんてシステムはなかったからな。
この世界に来た弊害みたいなものだろうさ」
黒いローブがめくれ上がってあられもない姿になっている女性が死んだような目をしながら即答する。
黒いローブの下は数個の骨の装飾品しか身に付けておらず美しい紫色の裸体が見えてしまっていた。
服を直したくても両腕を固定されているせいでできないようだ。
「お、俺の銃は!?
俺の銃はどこだ!?」
「俺が持ってる」
せっかく生えたご執心の銃を見失って発狂しかけている赤帽子の少女に幼女が両手で握り締めている事を伝える。
しかし、残念ながら2人は背中合わせでその上、間には障害物が多く銃を渡せないようだ。
渡せる距離であっても幼女の握り締め方から素直に渡すとは到底思えないが。
「…おーい。
そろそろ退いてくれ。
俺、下敷きになってるんだけど?」
そして何故か1番下で仰向けで踏まれている褐色の女性が不満を口にした。
「######!
#####!」
彼女達が好き勝手に話していると監視していたなかで無事だった者が手の甲に向かって叫びながら気絶した者を引きずって壊された壁とは別の方向へ行く。
悶絶していた者もある程度回復したのか呻き声をあげながらゆらゆらと立ち上がり着いていく。
すると壁にいきなり穴が広がり監視していた者達が通ると何もなかったかのように閉じてしまった。
彼女達は監視がいた事に驚きながら一部壊れている壁を壊しつつ体制を整えた。
「…なぁ。
ちょっとローブめくって股を開いて」
「どうした変態」
褐色の女性が黒いローブの女性の肩を叩きながら耳を疑うような発言をした。
それに対して動揺もせず冷めた態度で対応しているのは中身が同一人物であるがゆえであろうか。
「いや下から見て気付いたんだけど。
ま…生殖器と肛門が…見当たらなかった」
少し言い淀んで言葉を変えたが褐色の女性は己が見た事を隠さずに伝えた。
それを聞いた黒いローブの女性は表情を変えずに固まった。
褐色の女性以外の3人も音がしそうな勢いで首ごと向いて凝視したまま動かなくなった。
「…ちょっと待ってろ」
黒いローブの女性はフラフラと夢遊病の患者のように歩いて壊した壁を跨ぎ淡い黄色の物体を被ってゴソゴソと動く。
小さく否定の言葉が聞こえたが4人は聞こえないフリをして円陣を組んだ。
「つまり俺達はまともな人間の造りじゃないって訳だ」
「ゲームの世界に入ったから納得はするけど現状はヤバくないか?」
「おいおい、あの部屋に入れられる前になんかの装置を使って空中に俺達の映像が浮かんでたよな?」
「…もしかして中身も分かる映像だった?」
「人外証明」
「これって逃げなきゃモルモット扱いされない?」
自分達が研究される風景を想像したのだろう。
監視していた者達が出て行った壁の方に4人の視線が一斉に向く。
「…待て。
逃げるな。
逃げるよりも残る方がメリットがある」
今にも壁に向かって突進をしようとした彼女達を止めたのは奥の部屋に居た黒いローブの女性だった。
【ネクロマンサー】
【迷宮の國】のサポーター系の職業の1つ。
黒い匣を媒介に死霊術を使って戦う。
主に死霊を召喚し相手を攻撃したり妨害する。
黒いローブの下は小さな骨の装飾品しか身に着けておらず、度々薄い本でネタにされていた。