第三話 捕獲された転移者達
狭い室内で全身を柔らかそうな淡い黄色い何かにすっぽり包まれて首だけを出した状態で拘束された5人の女性が並んで座っていた。
何かに包まれているせいか先程の彼女達よりも二回り大きく膨れて見える。
狭い部屋にそんな状態なせいか発酵させたパン生地に美しい女性達が埋まっているように見えてとても滑稽な状況であった。
彼女達はどんよりとした雰囲気のなかでボソボソと会話をしていた。
「なぁ…これからどうする?」
「どうするって…
流れに任せるしかないだろ。
言葉が通じないんだから」
「あの人達、何を言ってるか分からないけどめっちゃ怒ってたよね。
メット被ってたから表情も分からなかったけど声が本気だったし」
「あそこって立入禁止だったのか」
「その上、抵抗して怪我させちゃったし」
「いや…だって…
あんな簡単に折れるとは思わなくて」
「武具は全て没収。
俺を除いて皆拘束」
「そうだぞ!
俺の銃が…銃がぁ」
「うぅ…すみませんでした」
「まぁまぁ。
怪我をさせちゃったのは申し訳ないけどさ。
ほら、俺達が怪力の持ち主だって分かっただけでも収穫はあったじゃん。
あの壁盾を複数人でも持ち上げられなくて重機みたいなものでようやく動かしてたんだよ?」
「見た感じ重そうだったしな」
「いやいや、それよりもさ。
ここに来る途中の景色、見覚えあるか?」
「無い。
そもそも迷宮とそのごく一部の周辺しか知らないのに見覚えなんてある訳がないだろ」
「いやいや、草原から無機質な室内に変わったのも驚いたけどよ。
翼もないのに空を飛ぶ乗り物に空中に映された立体映像、高層ビルみたいな建物。
最後は俺達を拘束してるこれだ。
変な棒を押し当てられて気付いたら全身を拘束。
他にも色々あるけど今までの【迷宮の國】シリーズの文化レベルとかけ離れ過ぎじゃない?
あのゲームの舞台は古代とか中世だったじゃん。
突然の近未来、それも現実の世界よりも進んでいる感じの文明。
もしかして最新作の舞台は近未来都市迷宮なんじゃない!?」
「!?
そんな最新作の情報なんて聞いてないぞ!?」
「なんと…
なんと!!」
「俺達は神の作品を見逃してしまったということなのか!?」
赤帽子の少女の熱弁に4人はどんよりとした空気が嘘だったかのように興奮し出した。
全身を拘束していた物を強引に脱いで放り投げ推測という名の妄想を口々に話し始めた。
興奮のあまり立ち上がって踊りとも足踏みとも取れる動きを一斉にやりはじめた。
その様は何か邪な儀式にも見える。
そんな彼女達を壁一枚向こうで監視している者達が居た。
顔をすっぽり隠したメットに全身のシルエットがよく分かるボディスーツを着て先が丸みのある蹄鉄のような物が取り付けられた棒を彼女達に向けている者が2人。
少し離れた所にもう1人居るが独り言が激しいのか手の甲に向かってずっと話し続けていた。
彼女達側からは監視している者達が見えていないのか狂乱した様子でお祭り騒ぎを続けている。
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無機質な室内に顔を隠したメットにボディスーツの者が慌ただしく作業をしていた。
いや、その者自身は動いてはいない。
しかしその周囲には次々に空中に浮かんでいる映像が変わり、文字や数値が瞬時に変わっていく。
作業は順調に進んでいるのか膨大に浮かんでいた映像の数が次第に減っていき最後の一つが消えた。
その者は手の甲をメットに近づけた。
「こちらディム。
育成室に異常なし。
5名の侵入者とその所持品の該当データなし。
生命感知器が反応しなかった原理は不明。
生命吸収を無効化した原理も不明。
映像記録を確認したが突如発生したようだ。
…何度も精査したが加工された様子はなし。
データを送信する為、そちらでもご確認を。
身柄と所持品は…」
淡々と話しながらその者は部屋から消えた。
【ガーディアン】
【迷宮の國】のタンク系の職業の1つ。
全身鎧に巨大な盾を使って戦う。
特に盾を持ったままの突進は圧巻。
そのせいかプレイヤーからは「守るよりも攻める方が得意」と揶揄されていた。