第二話 突然の接触
心地よい草原に変わらず5人の女性が輪になって座り込んでいた。
長い間、話し合っていたのか日が傾き影が長く伸びている。
「よし、俺達の名前はゲームで使っていたパーティ名【ブルーゴート】を採用する。
異論はないな」
「「「「異議なーし」」」」
赤帽子に真紅のコートを着た少女が他の者に問いかけると綺麗に合った応えが返ってきた。
長い間、名前に付いて話し合っていたのか彼女達は安堵や達成感に浸っていた。
「…おいおい。
結構な時間を話してたみたいだぞ。
このままここで野宿か?」
大柄な女性が辺りを見回しながら尋ねる。
視界に写るのはどこまでも続いている草原と地平線に沈みそうな太陽のみだ。
「野宿は確定だろうな。
周囲に人工物が見当たらないし」
「明かりがあるうちに俺達に何ができるか確認しておかないか?
ゲームのキャラクターならメニューだって使えるかもしれないし」
「ゲームのシステムとか利用できるなら今後の冒険が楽になるし元の世界に戻るヒントにもなるかも!」
褐色の女性の言葉を機に彼女達はメニューやらステータスなど【迷宮の國】に関するであろう言葉を片っ端から唱えていった。
「…やっぱダメ。
反応なし」
最後の足掻きで試した思念で何も変化しない事を悟ったらしく幼女が俯いた。
期待していた分、何も変化がなかった事からか、それから彼女達は静かになってしまった。
「ゲ、ゲームじゃボタン操作だから仕方がないよね!
それよりもスキルの方が可能性は高いと思うんだ!」
褐色の女性が周囲と同じように暗くなりかけている雰囲気を明るくしようと話題を変えた。
「スキル…か。
なら最初は安全に試せて分かりやすいモノがいいんじゃないか?」
「基礎スキルはステータスの上昇だったな」
「種族スキルは俺だけだ。
暗くなったら分かるだろうから後回しで良い」
「協力スキルは無理だな。
あれは戦闘中じゃないと使えなかったし」
「それじゃ攻撃系は辞めておこうぜ。
空撃ちなんてゲームには無かったシステムだから対象が居ないと使えないかもしれない。
そして対象が俺達しか居ないんじゃ試すには危険だ」
「防御系も使えたのか分かりにくいから却下で」
「それじゃ【ガーディアン】と【スナイパー】は除外だな」
壁のようなモノを軽々と持ち上げて意気揚々と輪から離れて行っていた大柄な女性と嬉々として銃を構えていた少女が落胆した様子を隠さずに輪に戻ってきた。
「俺もパス。
【ネクロマンサー】は前提条件で死霊を召喚しなきゃスキルは使えない。
死霊を制御できるか分からん」
黒いローブの女性が黒い箱の上で寝転がりながら手をヒラヒラさせて立候補から退いた。
「残るは【ダンサー】と【オーファン】のみか」
褐色の女性が恥ずかしそうに幼稚で奇怪な動きをしている様子をなんとも言えない表情で4人は見守っていた。
しかし変化は何もない。
「えっと…踊ってみたけど…
補助系って見て分かる?」
「中身が俺な時点で悟るべきだった」
「ちなみにスキル名は?」
「【迎撃の舞】です」
「バカなのか?
攻撃してくる相手あってこそだろ」
黒いローブの女性にそう言われて羞恥心に耐えられなかったのか褐色の女性はそのまましゃがみ込んで顔を伏せてしまった。
そんな褐色の女性を除いた3人が期待と諦観のある視線を幼女へと向けた。
幼女は恭しく頷くとカゴを漁り小袋を取り出した。
それには幾重にも重なったツタのような絵が描かれている。
3人はその小袋を見て軽く頷いた。
どうやら言葉もなしで意思疎通が図れているようだ。
幼女はその小袋を全開にしてできるだけ遠くの方に放り投げた。
小袋は中身をばら撒きながら空中に曲線を描き…地面に落ちた。
それ以降、どれだけ待っても変化はなかった。
「…なぁ、思ったんだけどよ。
俺達、もしかしたらレベル1のスキルポイント未使用の初期状態なんじゃないか?」
誰が言ったかそんな言葉が静寂のなかで出た。
その言葉に反応する者は居なかったが、どんよりとした空気がなによりも彼女達の心情を表していた。
「#######。
#######」
「「「「「誰!?」」」」」
彼女達以外の者、男性の声が響いた。
しかし、その言葉は彼女達には理解できなかったようで警戒するように背中合わせに集まった。
するとどうした事だろうか。
何も無い所から複数の人影が現れ始めた。
その途端に草原の景色が無機質な室内へと変換されていくのを彼女達は驚きながら見ている事しかできなかった。
【ブルーゴート】
主人公がゲームでよく利用する名前の一つ。
由来は苗字である【青柳】を【青い山羊】ともじって英単語で組み合わせたもの。