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Murder Would  作者: 黒澤 ユウ
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Ep3.【暗闇に潜む恐怖】

 隼人は恐る恐る、異彩を放つ軍服の男に近寄る。

 短髪をした男は、彼に何か問いただす様子で顔をしかめる。

 その彼の放つ鳥肌が立つような罵声で、隼人は一歩下がる。


「なんか用か?」

「そこで何をしていると聞いたんだ。……答えてもらおう先ほどここで何をしていた?」


 身の危険を感じた彼は中腰となる。


「ただ友達と遊んでいただけさ。ちょうどさっき別れていたところだ。これでいいだろ」


 震え声になりながらも彼は答える。

 だが、隼人の心拍は鼓動を収まらなかった。

 腑に落ちず恐怖が抜けきれないそんな様子で向かえにいる男は、恐れを感じた隼人に対して言う。


「見たのか? "アレ"を」


「アレとは」


 突然。

 何を言い出すかと思えば、なにやら意味深な言葉が彼の口から出てきた。


(あの不思議な力のことを何か知っているのかこいつは)


 これまで調べていた事柄。

 あれと、今彼が対面している男には何か関係がある。

 薄々なにか引っかかる隼人は表情を更に深く険しくする。


「なんだその顔は。やはり知ったか」

「なんの話だ? 俺は都市伝説感覚で色んな情報を探し回ってはいるが」


 気がかりな言動。

 当てはなくもないが、相手の話に妙に引っかかる隼人。


「……そのお前が言う物はわからない。なんだそれは」


 すると軍服の男は彼に答える。


「都市伝説か。……まさか門外不出の機密情報がこのような形で漏洩していたとは」


 予想外と感じた彼は、尻目に夜空を見上げた。

 そして再び。

 隼人の方を振り向くと微笑を浮かべて。


「……いいだろうどうせお前はここで死ぬのだから」

「何を言って!? なんだそれは」


 気がついたとき。

 隼人が彼の片手を見るとそこには。


「エカテルナの持っていたような武器と一緒? ……しまった」


 あれほどに。

 彼女と言わない約束をしていた事だが。

 恐怖のあまりに彼女の名を口にしてしまう。


 その彼が持っている武器は。

 細長い、黒金の色をした剣。

 諸刃の部分が赤く光る様子は。まるで映画に出てきそうな架空の武器のようだった。

 だがその隼人の考えは一瞬にして打ち消される。


 一太刀。

 人と同じぐらいの大きさをした、斬撃が彼の頬を過り。

 その隼人の皮膚からは、赤い鮮度の液体が顔から流れる。


「ぐっ!」

「ほう、エカテルナを知っているか。さっき一緒に隠れながらこの工場に来ていたよな」

「知ってどうする。あの噂は本当だったっていうのか!?」

「あぁそうだ。この武器はお前の探り当てていた情報そのものだ」


 死の恐怖に怯え出す隼人。

 男の持つその武器に畏怖。

 そして辺りに対抗できる武器がないか、一瞥する。


(あ、あれは。……鉄パイプ? よしあれで)


「逃がさん!」


 前転し、逃げようと睨んだロシアの男は再び剣を払う。

 襲い来る斬撃の数々を果敢に前転で避けていき。


 先ほど目に止まった鉄パイプを拾う。

 息を切らしながら、片手に鉄パイプを携え。


「なんだかしらないが、ただで死ぬよりかはこうやった方がマシだ! はあああああ!」


 鉄パイプを持ち、駆け出す。

 力をその重りのある棒に込め男の方へと接近。だが、男は何故かそこから動こうとしなかった。

 動くよりも受け止める様子で剣を前にだして攻撃を伺う。


「悪くない作戦だな。さすが学生はそれぐらいなら頭は回るらしい。……だが」


 隼人が彼の方に近づき、殴りかかろうとした。


「たあああああああああああぁ!」


 手応えはあった。

 だがそれを男は。


「なっ」


 パイプが、彼の刃に接触した瞬間。


 力の押し合いにはならず。

 隼人が持っていた武器は、まっ2つ切れ地面へと転げ落ちる。

 そして男と目が合う。人を見下す嘲笑。


「相手が悪かったな」


 隼人が。

 その恐怖を悟った頃にはもう遅かった。


「あの世で悔やむがいい……はぁ!」


 瞬く間に。

 反射的に飛んでくる斬撃。その一撃を彼は腹部へとくらい。

 端の地面へと引きずるように飛ばされた。


「ぐああああああああ!」


 斬撃によって引きずられた跡からできたのは、一面に広がる赤い血痕。

 彼は痛み苦しみながらも立ち上がる。

 だがその辺りに広がる、自分の垂らした一面の血を見て恐怖した。


「は……腹が。……っ!? なんだこの大量の血は」


 出血する腹部の箇所を押さえ彼は前を見る。

 だがそれは恐怖そのものの有様で、見るに絶えない血が目前に。

 朦朧としながら瞠目させ。

 その恐怖を身に覚えた隼人から、激しい痛感が体より流れる。


「はぁはぁ。はぁはぁ」


 鼓動が激しくなる度に。

 呼吸が乱れていき気が動転。

 身の危険を感じ逃げようと、視野に広がる地を駆け回る。


「逃がさんと言っただろうが!!」


 痛みに耐えながら走り抜けるが、その度に斬撃が彼を襲う。

 恐怖。

 今まで死に怯えることがなかった彼だが。

 この状況に立たされ、かつてないほどの絶望を染み染みと感じさせた。


 もう前転するほどの、気力と体力は残されていない。

 漸次。

 激しく体を動かす度に痛みは増す。

 逃げ惑い、必死で次々と襲い来る斬撃を粘りながらも耐え続けるが。

 やがて体力に限界がきた。


「もうダメだ。……これ以上走ったら本当に死ぬ。……ど、どうすれば……!」


 片手を振りかざして最後の足掻き。


(頼む、奇跡でもなんでもいい。俺はこのまま情けない死に方なんてしたくねえんだ!)


「これで最後だ死ね!」


 最後の一太刀を下ろす男。

 高速で距離を縮めてくる斬撃が隼人を襲う。

 死を覚悟し、目を瞑る。


 だがその時だった。

 差し出した方の手が瞬く間に光り出し。


「な、なに、なんだその光りは?」


 接触したその斬撃をかき消した。


「……こ……これは。へへ神様もどうやら俺をただで死なせちゃくれないらしい」

「小癪なあああああああ!」


 あまりの展開に、気を乱す男は斬撃の数を増やし。

 一振り、一振り、また一振りと連続で打ち続ける。

 だがその攻撃は全て隼人の腕によってかき消され。


「なんか、体から力を感じる。さっき消した力の何かか? ……まあいいこの力を打ち返してやる。たああああ!」


 再び走り出し、体から感じる未知なる力を隼人は。

 手に集中させながら走り抜ける。

 痛みを感じながらも耐え続け。


「何故だ。その力はどこからくる?」

「さあな。……神様からの最後の贈り物…………かもな」


 その言葉を聞いた男は一喝。


「ふざけるなあああああああああああああ!」


 工場の隼人より1、2段高い屋上に向けて、彼は特大の斬撃を放つ。


「ふん……でかけりゃいいってもんじゃないぜ」


 その攻撃を造作もなくかき消す。敵の放った斬撃を手に振りかざしただけで風のようにかき消される。

 悠々と手に持つ武器を片手に持ち、力を振り絞る。体から湧き出るある物を感じ取った隼人は腕一杯にそれを蓄え。


 そして。


「食らいやがれ。……これが俺の最後の足掻き。受けてみろ!」


 手の平を広げて力を込める。

 隼人の手は先ほどより発光が激しくなり輝きが増していく。

 瞬時。辺りを包み込むような目映い光が彼の目前に巨大な盾となり出現。

 そのまま力を全て解き放つイメージで、広大な砲弾をその男に向けて放つ。


「「これで、最後だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

「ぐあああああああああああッッ!!」


 男は工場の向こうにある、ガスタンクへと直撃し。

 衝撃に耐えきれなかった球体の爆発に巻き込まれる。


「こ、こんなバカな! 非力な日本人に私が負けるなんぞおおおおおおお!」


 男は爆風に身を包ませると、爆音と共に姿を暗ました。


「はぁ。はぁ。最後に一矢報いることできたな。……これで心残りはない。……あ…………安心してあの世に逝ける」


 全ての力を使い果たし、その場で倒れ込む隼人。

 とそこに。


「? なにさっきの爆音は? ……ッ! 隼人! どうした!」


 丁度。

 話の事をおえた、エカテルナが姿をみせる。

 と近くに見入った、うつ伏せになる隼人に駆け寄り彼の上体を起こす。


「……はは、エカテルナか。ちょっと不幸な目に遭っちまってな」


 最後。


 彼の目に映ったのは、愁眉を開こうとしないエカテルナの姿だった。視界がぼやけ意識がしっかりしないが、彼女の声と、肌触りでこれは彼女だと認知できた。

 エカテルナは必死で彼の体を揺らし、意識を取り戻そうとするが。


「くっ腹部から血が……!」


 心配する彼女の麗しい顔を見ながら、彼は呆然としながらゆっくりと目礼すると。


「隼人! 隼人!」


 視界は暗闇へと閉ざされた。

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