Ep2.【真夜中の同行】
昼間の休憩時間。
隼人は礼冶と屋上でいつものように会話していた。
転校生エカテルナのことを気にしたせいか饒舌と。
そんな無駄話に隼人は仕方なしに付き合っていた。早くこの場から逃げ出したいほどに。
「あのエカテルナさんどうよ。かわいくね?」
「まあそうだけど」
「なんだよ、そのもう知っているよみたいな顔は」
「なんでもない、俺は先教室に戻っているから。それじゃあな」
「っておい!」
話を蹴るようにその場を後にする。
どうにも礼治と話していると気が狂うようだった。
長丁場にでもなればあと何分続くのだろうと、このまま愚問な話を聞いているだけでは埒が明かないのだ。それに終わる傾向も危ういところだ。
でも決して悪いようなヤツではないので、今度なにか奢ってやろうと隼人は考えた。
しかしそんなことよりも気になることがあった。それは数日前、夜中偶然出会ったエカテルナが隼人達の学校に転校してきたことだ。
なぜ、うちの学校へやってきたのかと考え込み、彼は礼冶とは違う意味で気になっていた。
スパイ的な潜入か、はたまた暗躍する裏の成り行き、はたまたそれとは違う何かの理由か。
熟考するほどに頭は痛くなる一方である。
と教室で暇つぶしに外をみていると。
「やあっ」
「うおっ!」
突然エカテルナが顔をのぞき込んできた。
何気ない平然としたその表情は、淡々した相貌をしている。
瞳孔を丸くさせこちらに聞くことがあるような目つきをしているが、一体何様かは知らないが彼に何用だろうか。
「学校では数日ぶりになるかな。と言っても全然話してなかったけど」
「脈拍がさなすぎやしねえか」
転校してからの彼女と彼は全く付き合いする場面はなかった。
授業の合間、多少起立して姿が見えるくらいで、実際にはまだお互いちゃんと話していなかったのだ。
「失敬な。それが女の子に対して言う態度なの? 馬鹿なの。それとも阿呆なの」
上から目線で小馬鹿にされる隼人。
彼女の余裕な素振りは一体どこからくるのだろうか。
激昂せず冷静な応対で隼人を貶す。
怒りを最小限に堪え持ちこたえようとした彼だったが、それも無理だった。
体から無性に際立つ衝動。それはまるで自分が軽蔑でもされているかのようにも感じた。
彼はそんなに優劣などは気にしない立場なのだが、向こう側も偉そうな口答えだったため妥協する意すら伏せたのだ。
そして堪忍袋の緒が切れた隼人は急に血が上り。
「馬鹿でもねえし、阿呆でもねえ。あと日本では関西と関東でその2つの言葉を適当に言っていたら色々文句を言われるらしいぞ」
「へぇ~。日本語って難しいんだね」
満身の怒りを彼女にぶつけたつもりだったが、何の効果もなかった。
特に興味もなさそうな表情をしているので、別にどうでもいいことなのだろうか。
いかにも喧嘩でも売られているような気がした隼人は、エカテルナを睨み付けて言う。
「なんだよその興味なさそうな顔は」
「あぁごめんね。あまり慣れてなくてこういうの」
「……それで何用だよ。金ならねえぞ」
それはさておき、なぜ彼女は自分の前にきたのだろうと要件を言うよう隼人はたずねた。
心の底で、命を狙われるのではないかと隼人は手を震わせた。
夜中の光景が今にでもフラッシュバックで密かに映る。その時の悍ましいほどの武器が。殺されるのではないかと思わせる相手からの殺気を感じさせる目線が。
彼はそれを見るのが非常に嫌だったのだ。
なので心を紛らわせるため、ふざけたように聞いてみたのだが。
「いやそういうわけじゃないから」
エカテルナは姿勢を正すと要件を丁寧に語り始めた。
「まさかあなたがこの学校の生徒だったなんて意外ね」
「俺もだよ、まさかあんたみたいな殺し……いや美人がこの学校に転校してくるなんてさ」
「さらっと殺し屋とかいうんじゃないわよ。これでもちゃんとしたロシア人なんだから」
彼女はロシアからやってきた言わば留学生である。
日本のことに関しては多少にわかではあるのだが、来る以前に相当日本語を勉強した模様。
最初は文法の書き方がいまいち分からず苦戦したんだとか。
「とりあえず、この間のことは謝るからさ。あの日あったことは内緒にしてくれない」
と手を合わせながら、隼人に片目を閉じウインクを送るエカテルナ。
「……あんたがそういうなら。でもあの武器は一体」
エカテルナは後ろに誰も居ないことを確認すると隼人に話す。
「いい? このことは誰にも言っちゃだめよ。私達だけの内密の話ってことで」
「おっけおっけ」
どうやら世間に口外出来ない重要な話らしい。
「あの武器はね、他の武器とは違う特殊な武器なの。詳しくは言えないんだけど私は……ううん他の仲間何人かも私と同じような武器を使えるんだけどね」
エカテルナ意外にも特殊武器の使用者はいるらしい。
どれくらいの強さかは分からないが大体彼女と同格くらいだろうか。
実際に戦ってはいないので強さがどれほどなのかはわからないのだが。
「上の人からはこの武器のことは絶対にばれないようにするよう口止めされているの。そのことをあなたに言っておきたくてね」
取り敢えず秘密事項だということは把握した。人には知られたくないということを。
しかしそこで隼人は気になることがあった。
それは掲示板に書かれていた内容にとても酷似していたことだ。
特殊な武器に特殊能力。それが数年前空から降り注いだ、光の雨と何か関係があるんじゃないかと。彼は考えを募らせれば募らせるほど気になるのであった。
「どうしたの? 拳に力なんか入れて。調子でも悪いの」
(これは1度きりのチャンスかも知れない。でも)
『知らない方がいいこともある』
その言葉が脳裏で再生される。まるで隼人の行く道を拒むように。
干渉でもすれば命がないかも知れない。
下手をすれば死ぬことだってあるのだから。
「…………」
「あの?」
不安に隼人を見るエカテルナ。言うのを躊躇う隼人に気づいた彼女は少し言動を変えて言う。
眉をひそめ気に掛けるような視線で。
「言いたいことあるなら……言ってもいいよ。……この間のこともあるし」
どうやらあの日の事を相当引きずっていたらしい。本当はそこまで怖がらせる気は全くなく、少し注意したようにみせたらしい。
「本当か?」
「うん、まあ私の出来る範囲なら。……その代わり武器の事は言わないで誰にも決して」
「……それじゃ今度あんたと一緒について行っていいか? 少し気になることがあって」
「うーん。でも私に着いていくからと言って特になにもないよ。それに君が危険な身に晒されるかも知れないし」
瞳孔を真上に向けながら、顎に小指をあてがい考える様子をみせる。
「いやその時はあんたが庇ってくれればいいだろ」
期待をさせるようなものはない。そのように言い引き返すように彼に言うのだが。
隼人は諦めが悪いのか、彼女にその時はボディガードするように提案する。
呆れるようにため息を吐くエカテルナ。何か気に掛けたことを言ったかと思ったら。
「さっきから聞きたかったんだけどさ、私あんたって名前じゃないから。ちゃんと名前で呼んで私もそうね……隼人って呼ぶからさ」
「……エカテリナさんに守ってもらえるとうれしいです」
と小声で嫌々答えた。
「いや、一文字間違えてるし。エカテルナよ」
間違えてしまったせいか少し叱られてしまう。
決してからかっているわけではないのだが、口が滑って間違ったように聞こえてしまったらしい。
だが照れ隠しのせいなのだろうか。彼女はそっと彼に手を差し出すと。
「まあでも……隼人は悪い人じゃなさそうだし、守ってあげてもいいかなって。だから今度の夜私と一緒に歩いてもいいよ。その日街を回るよう言われているし」
一悶着あったが3日後、一緒に歩く約束をするのであった。
3日後の夜、とある店で待ち合わせをした隼人は、集合時間前にその店前で待機していた。
夜の路上には何台もの車が光を灯し疾走する。
21世紀になったとはいえ、人並みや辺りから響いてくるものの騒々しさは相変わらずといったところである。
ここが大都会というのも理由に挙げられるが、日本の経済発展などはまだ先の話になりそうな段階だ。
路上の通りにはたくさんの人が徘徊している。
会社から帰る人もいれば、集団で帰る学生の姿も見受けられる。
バイトでチラシを配りをするメイドの姿や新聞を立ち読みしながら歩く人など様々である。
「なんだろう、すっげえ目立っているようなきがする。……今ならデートしている人の気持ちが分るかもな」
彼には一度も彼女ができたこともないので、こんなことを言っても説得力は全くないのだが。
周りからの注目を集めながらエカテルナを待っていると、誰からか背後から手を置かれる。
ポン。
「やっほ」
後ろをふりかえるとワンピースにスカートとごく普通の学生がよく着るような服装でエカテルナが顔を出した。
「なんだよ、その格好」
「いや、軍服は目立つからね学校に行っている間は自由服着ろって上司から言われたんだ」
「だからってそれ」
彼女が言う、上の者が少し気になるが隼人はあまり詮索しないことにした。
あまり余計なことを聞けば彼女になにされるか分からないからだ。
もしかしたら次は体を射貫かれてしまうかもしれない。そうなるくらいだったら言わない方が身のためだろうと。
「何よ、文句ある?」
「いや特にないけど」
「なら別にいいでしょ、とりあえずお腹空いたし中に入りましょ」
エカテルナのとてつもない腕に掴まれると、隼人は引きずられるように彼女と共に店内へと入るのであった。
「具体的に、エカテルナ達は何しに日本へきたんだ?」
「そうね、この前も言ったけどちょっとした偵察よ」
紅茶を啜りながら悠々と話すエカテルナ。
「……なに? じっとこっち見たりなんかして。……ははーんさては私に惚れたね隼人」
少し茶化される隼人。
好意が別にあるわけではないのだが。
「してねえよ。でも外国人と一緒にこうやって食事をとったことがないからさ。どういう食べ方をするんだろうなって」
「そんなに私の食べ方がおかしい?」
「いや全く」
「ちょっと、なによそれ! ……まあいいわ小声で申し訳ないけど今日の事を言うわね。でも私が帰れって言ったらすぐ帰りなさい。あなたにも言えないこともあるからね」
「分かったよ。その時はお前に従うよ。……まあ知られたくないことだからなそうなった場合は大人しく帰るよ」
「渋谷の一帯に行くように言われているんだけど、そこであるものを採取するよう言われているのよ。それがこれ」
するとエカテルナは1枚の写真を隼人に見せてきた。
不透明なカプセルの中に目映い光らしきものが入っている。
なんの粒子体かは分からないが、これを回収して仲間の元へと届ける任務らしい。
「このカプセルね。これにはあの光の雨から降り注いだ粒子が詰まっているの。誰かがカプセルに閉じ込めて埋めたらしいんだけど」
おそらくこれを回収して仲間の元へと届けるのだろう。
奇妙な謎のカプセルだが。
「光の雨? あの……光の雨か」
「そうよ、誰かが興味本位で持ち帰って研究しようと考えていたらしいけど、強大な力で持ち帰りきれず結局そこに埋めて帰ってしまったらしいけど」
「どうしてその人は持って帰れなかったんだ。普通の光が詰まったカプセルだろ」
だがエカテルナは険しい表情で答えた。
それは誰も知らないような衝撃の事実だった。
「…………あなただけに教えてあげる。あれは私のような能力者にしか持てないわ」
「どうして?」
問い続けるべく彼女に聞く。
「能力者の体には、その光と同じ成分があるから。私達能力者は光の力によって武器が使えるし、能力や並の人間とは違う力が出せるのよ。全部私の国の研究員が究明したことなんだけどね」
この情報はロシアの人間しか知らないらしい。日本では単なる光と思われているらしいが本当は違うようだった。
なんでもロシアの一部の人間は、この能力に目覚めた人がいたんだとか。
エカテルナもその1人に含まれているらしく、2年前に光の力が宿った模様。
正式な呼称はまだ付けられていない未知のエネルギーと呼ばれており、現時点それ以上の真相は謎のままである。
(謎が多い特殊能力に満ちたエネルギーか。やっぱりあの噂は本当だったんだな。……でも待てよ日本人の一部もその力が使える人いるって聞いていたけど知っているのか)
「なあじゃあ……?」
「ごめん、そろそろ時間だわ。行きましょ」
聞こうとしたが時間がどうも過ぎてしまったみたいなので、隼人の気になることは聞けなかった。
「……分かった。まあ大したことじゃないし別に良いんだけどな」
「……? まあいいわ」
店を出て、電車を経由して渋谷へと向かった。
車内は夜中のせいか人混みで溢れていた。
途中エカテルナとはぐれそうになる場面も何回かなったが、事無きを得て目的地である渋谷へと着いた。
21世紀の渋谷。
最近では近未来的な電子掲示板が導入され、リアルタイムで新しく入ってきた情報を即座に入手できるようになった。
渋谷以外でも電子掲示板が置かれている場所は、東京の各個にあるのだが未だに数は少ない。
街並みも近未来的な建築に変わっており、至る所に光のラインが行ったいり来たり巡回している。
そしてそことは違う、人が空いている誰も居ない薄暗い小道。
ここには明かりの数が少なく、不良以外あまり人は出てこない。
なんでも昔謎の化け物に襲撃され、当時直す予算もなく結果的に放置したみたいだが。
近々違う建物を建造して、完全にこの一帯は埋め立てるらしい。
するとエカテルナはスマホを取り出し、GPSを起動させた。
「…………ここね」
目の前にある、何の変哲もない地面。
彼女は前に立ち、その場で中腰となった。そして手で地面を何やら手探り始め小さな玉を撒いて引き下がる。
「それは?」
「爆薬ね」
「それを使って大丈夫なの?」
「大丈夫、あの爆薬は無音で爆発させる特殊なものなの。範囲は狭いし周りに被害が及ぶことはないわ」
周辺には高層ビルがいくつか建ち並んでいる。
本来そんなことすれば被害甚大でただでは済まないであろう。
だが簡単に解決できると言い張るエカテルナは、随分と余裕そうな表情だ。
ロシアだと日本にはない、進歩している高度な技術があるのかも知れない。
だがその中身を聞こうとしても口を開いてくれなさそうだが。
エカテルナはポケットから、リモコンらしきものを取り出した。そして親指をリモコンのボタンに乗せる。
「隼人5メートルくらい下がって」
「お、おう」
言われるがまま同時に後退る。
爆発が小さいとはいえ、当然ではあるが巻き込まれるもある。
下がるのは妥当と言える。
そしてエカテルナは親指で力強くリモコンのボタンを押した。
無音で中くらいの爆発が起こる。辺りが一瞬点灯したかのようにみえたがすぐ消え去る。爆発が起きた箇所には穴ができており、穴からは煙が上がっておりそこをみると。
「あったわ」
それは先ほど写真で見た、光が詰まった謎のカプセルだった。
「あっさりだったな。というかお前の国だととんでもないものが作られているんだな」
「まぁそういうことになるわね。何にせよ政府もこの存在を知らない。つまり門外不出のものが多いってわけね私の国では」
画期的な装置の性能に驚きを隠せない隼人。
一体どうやったらそんなものを作ることができるのだろうと言葉を失う。
技術面に関しても実力面どこを取ってもロシアは抜け目がない。
そしてエカテルナは再度爆破ボタンを押す。
すると爆発寸前の状態に戻り、穴が塞がった。
どうやら逆再生させ、修復させる機能があるみたいだ。
「なんでもありだな」
「じゃあ行きましょうか」
その場を後にし、エカテルナと共に譲渡するよう言われている、場所へと彼女に誘導されながら隼人は付いていった。
「ね、簡単な任務だったでしょ?」
カプセルは他人にばれないよう、手提げ袋に入れて持ち歩いている。
電車や路地を経由して歩いていたのだが、1度たりとも怪しまれることはなかった。
そして誰も居ない工場へとたどり着いた。
なにやら製造系の業務とみられる看板が歩く途中かけられていたのでそういう関係の工場なのだろうか。
だが、今は真夜中。夜中工場の窓を見ても電気はついていない。
なのにも関わらずフェンスの扉は開いていた。
奥まで進むと開けた場所が見えてきた。
広々とした地面に立ち並ぶ工場。
辺りに所々何かのパーツが散乱している。
2人が誰にも見えないように建物の間と間にその開けた部分をみると。
人影が1つあった。
軍服を着る中年男性。彼は周りを見渡しながら辺りを警戒している。
「……さてと私を待っているみたいだから、隼人今日はここまでね。あなたの気になる事はなにか分かったかしら」
「そこそこな。お前達の事もそうだけど光の雨の正体が分かって今は満足しているしな。そんじゃあな」
「ええ。気をつけて帰るのよ」
エカテルナとはそこで別れ、隼人は来た道に戻り帰っていた。
外灯1つもない場所で気味悪い場所だったので、隼人はさっさと帰ろうと早歩きで進む。
「ふう、暗すぎるんだよ全く」
だがそんな隼人が早歩きで帰っていると、見知らぬ声に話しかけられる。
「おい、お前こんな場所で何をやっている?」
「え?」
その男はエカテルナとは違う、何か危険なオーラを隼人は感じていた。
読んで下さりありがとうございました。
自分なりに最低限分かりやすいよう説明したつもりでしたがいかがだったでしょうか。
書いていて思うのですが、相手に分かりやすいよう説明をしていくのが結構難しいですね。
我ながら頑張って書いているのですが、非常に大変です。
更に助詞などの品詞もいろいろと考えて打つ必要もあり、文法にどう当てはめていくかも重要なので頭使います。
さて本題ですが、隼人は光の雨の謎を解明すべくエカテルナに同行したわけですが、今後この光の雨が重要なキーワードになっていきます。
謎の美少女エカテルナそれとロシアの謎は一体なにか。そして隼人が最後声を掛けられた人物ははたして。
次回もまた見て下さるとまた嬉しいですではでは。